Wednesday, January 14, 2009

「風刺的重喜劇」

Rimg0414-1 川島雄三の「愛のお荷物」をDVDで鑑賞する。「幕末太陽伝」くらいしか観たことがなかったのだが、やはり面白かった。公開は1954年、日本の高度成長期が始まる頃。今のご時世とは真反対に人口が増え続ける中、皮肉にも厚生大臣一家が子だくさんになってしまうというコメディである。スクリューボール・コメディみたいな早口のセリフ、時々挿入されるゴダールやフェリーニを思わせる唐突なシーンなど、なかなかモダン。かと思えば、銀座や佃島を始め、本牧亭や赤線などという古き東京が写し出され、「変わるものと、変わらないもの」とが対置される。60年という歳月を経て、46才で早世した川島を始め、小沢昭一や菅井きんなどを除けば個性的な俳優達もそのほとんどは鬼籍に入っている。映画のラスト近く、京都祇園の茶屋の宴会で、ある政治家が「芸子とは、プロスティテュートかアーティストか?」と問うシーンがある。「売春婦か芸術家」ではなく英語で言わせるあたりはラジカルでさえある。一体、「プロスティテュート」などという英語を幾人の大衆が理解し得たのだろうか?当時「風刺的重喜劇」などと称されたこの映画の白眉である。いまさらながら、映画とはやはり高等遊民のなせる技だったのだ、と思った。