Wednesday, April 25, 2012

おとといポップス#8 ”ザ・バンドに肉薄したつもり”

Img 0501 バンドを結成するからには、名前が必要だった。随分考えたのだけれど、どれもピンと来ない。ある日、いつものように高円寺駅の高架下をすり抜けてムーヴィンへ向かう途中で古本屋のワゴン 100 円均一を漁っていた。すると、わら半紙のいかにも古めかしい薄っぺらな本が流し目をくれた。粗末な印刷だったが、確かに『葡萄畑の葡萄作り』と読めた。なんてイカレたタイトルなんだ、と思った。だって、葡萄畑で葡萄を作るのはアタリマエでしかない。作者はジュール・ルナールだった。読んだことはないが『にんじん』という赤毛の子供を主人公にしたフランスの小説を書いた人である。ページをめくると、エッセイとも警句ともつかない短い文章が並んでいた。そして、どうやら作者自身によるいたずら書ききみたいな挿絵が添えられている。たとえば〈ごきぶり〉というタイトルには黒い物体がチンマリと描かれ、「鍵穴みたいなものである」という文章だけという具合なのだ。その瞬間、名前が決まった。しかし、できるだけ意味のない名前を選んだつもりだったが、もちろんザ・バンドという、当時彼らがコミューンみたいな暮らしをしていたウッドストック村の住民から名付けられた名前にかなうものではなかった。その村には他にバンドはいなかったという単純明快な理由もあったのだろうが、「自分たちのためだけに音楽を演る」という彼らの姿勢には、これ以上の名前がなかったのだと思う。そのバンドのドラマーでヴォーカリストだったレヴォン・ヘルムが亡くなった。 5 人のうち、唯一のアメリカ人、それも生粋の南部人の存在は、どちらかと言えばペシミスティックなザ・バンドの音楽にまっとうなドライブ感を与えてくれた。鈴木慶一氏もツイッターで言っていたように、これで 3 人のヴォーカリストはすべていなくなってしまったわけである。写真は 1972 年くらい、ツアー先で撮った葡萄畑。ザ・バンドに肉薄したつもりなのである。