Thursday, July 31, 2008

小倉遊亀の小さな画集

Rimg0144-2 こうまで暑いと、やっぱりダレてしまうのが人情だ。手っ取り早く、海水浴という手もあるが、今年は温暖化の影響か例年に比べてクラゲの出没が早いらしい。僕はカナヅチなので刺される恐れは少ないが、浅瀬でシュノーケルのまねごとをやることはあるのでやはり油断は出来ない。といって、恒例の天ブラもこう暑くてはかなわない。いきおい、家でクーラーをかけてDVDを観ることが多くなってしまう。昨夜はフランソワ・オゾンの新作を観たが、コスチュームもので、僕が知ってるオゾンとはちょっと違った気がして、途中で観るのを止めてベッドに入った。で、古本屋で見つけた小倉遊亀の小さな画集をながめながら寝苦しさを忘れることにした。
 結論として、日本画は夏に合う、と思った。初期(1925年)の「童女入浴の図」などを眺めていると、涼やかでイイ。「胡瓜」なんて、この季節まさにど真ん中だ。淡い色調と繊細な筆致、西洋画にはない余白みたいな空間にしみじみホッとしてしまう。「浴女 その二」(1939年)の、浮世絵をモダンに消化したようななまめかしさも天下一品だ。そして、戦後になると作風に西洋の影響が顕著になる。マチスのデフォルメの真似だと言われた「娘」(1951年)などは、もう日本画とは呼びにくい域に入っている。続く「O夫人座像」(1953年)なんて、小津安二郎の映画に出てくる司葉子みたいにオキャンで現代的だ。そういえば、彼女が長い晩年を過ごした北鎌倉の画室の隣に、なんと小津が引っ越してきたという。近くに明月院という寺があり、そこの紫陽花がとてもきれいだという話もある。満開の紫陽花を観ながら、2人の間に時候の挨拶が交わされたこともあったはず、などと想像してみた。そろそろ、小津をDVDで見直してみようかな。

Thursday, July 24, 2008

YABUさんの新しいアトリエ

Rimg0042 YABUさんの新しいアトリエが仮オープンしたらしく、行ってみることにした。場所は、福岡にはめずらしい山ノ手にあり、急な坂を登った眺めのいいところである。まわりはリッチなマンションや、洒落たレストランがあって、そのあたりに住むのはちょとしたステータスなのだ。ところが、YABUさんが借りたマンションは、そんな場所には似つかわしくないようなオンボロ6階建て。築40年はゆうに過ぎていて、外装もボロボロ、階段は雨も降ってないのにいつもじめじめしている。実は、以前、僕の友人が住んでいたこともあり、その家賃の安さに驚いたことがある。「パレスチナ・ホテル」などという、彼らしいジョークがピッタリの物件である。部屋は3階で、遠くに福岡ドームやタワーが見渡せて、夕方から一杯やるには打って付けのロケーションだ。ただし、備え付けのエアコンが壊れているらしい。目下、連日30度以上の猛暑が続いている。もちろん、覚悟の上の訪問だった。2DKの白い部屋は、濃いブルーのエア・ベッドと、新作の真っ赤な椅子(YABUさんは家具作家でもある)を除くと、ガランとしている。「砂利を敷きたい」と言っていた床は、とりあえずの板張りだ。早晩、絵の具が飛び散って、ジャクソン・ポロックみたいな床になるのだそうだ。6畳間の真ん中の小さな段ボールの上に、なにやらプロジェクターらしきものが鎮座している。コロナ・ビールを飲みつつ、近くのスーパーから仕入れてきた串揚げをつつきながら、僕らは真っ白い壁に映し出されたDVDを鑑賞した。マイク・ニコルズの「卒業」である。外は夕闇が訪れ、この角部屋には回りの森から案外涼しげな風が吹き抜けてくれる。「キャンプみたい」と、ウチの奥さんが言う。気がつけば、映画は最後のクライマックス場面、ベンジャミンが汗ダラダラで走りに走っている。はっぴいえんどの「夏なんです」が聴きたくなった。

Thursday, July 17, 2008

ケチな買いっぷり

Rimg0528-1 東京をうらやましいと思うことはそんなにないけど、古本を探したくなった時などはそうだ。福岡には、古本屋が少ないように思う。九大があった六本松付近にはいくつかあるけど、昔っぽい品揃えがやはり物足りない。僕は、神田の古書店街みたいなものを望んでいる訳ではなく、散歩の途中に立ち寄って2,3冊気になる本が見つかるような小さな店がいい。その店らしいセレクトが感じられると、もっといい。と思っていたら、先日、顔見しりの店で酒を飲み、フラフラしていた時に見つけてしまった。確か、夜の9時を回った頃だった。歩きなれた界隈のオフィスビルの一階にある小さな区画のショップに、所狭しと本が並んでいた。ただし、看板も出ていないし、中では若い男女二人でなにやら作業中の様子だ。オープン前の準備なのだろうか。出直してこようかな、とも思ったが、酒の勢いもあり、ドアを開けた。迷惑かなと思いきや、「ドーゾ」との言葉に甘え、足元の本に気を付けながらお邪魔する。まず目に入ってきたのは、棚の上に面出しされている武田花の写真集。タイトルは忘れたけど、木村伊兵衛賞を取ったもので、もちろん、すでに廃刊。その隣には、武井武雄のいかめしそうな装丁の本がある。見せていただくと、初版は戦前で、こちらは昭和60年(位だったか)に再発された限定本で、中身はこけしの絵がズラーリ。氏が、コレクションしていたこけしを描き、詳細なデータまで書き添えてある。その顔顔の面白さはかなりのもので、こけしマニアではない僕でも惹かれてしまう。とはいっても、おいそれと買える値段でもない。ふと、東京に住む友人の顔が浮かんだ。確か彼は、こけしが好きだったはずだ。今度、教えてあげることにする(忘れなければ)。棚の方に目をやると、タッド若松が鰐淵晴子を激写した「イッピー・ガール」の背表紙が飛び込んできた。値段をみると、悪くない。でも、すでに持ってる本だし、これも誰かに耳打ちだ。というわけで、二人の仕事の邪魔にならないよう、大急ぎの探索の結果、手に入れたのは武井武雄の「本とその周辺」という文庫本一冊。およそ酔っぱらいらしくない、ケチな買いっぷりといえる。まずは、この本で武井武雄の予習をしておいて、次回限定本を狙ってやろうとの魂胆もあった。で、後日、今度はしらふの昼間に訪れた。しかし、やはりその本はあきらめて格安コーナーから「沖縄の焼き物」という本を買い求めた。出がけにふと、真新しい看板を見上げると「徘徊堂」と書いてある。作戦変更。やはり、この店は、もっと、したたかに酔っぱらってフラフラと立ち寄るべきなのだ。うれしいことに、閉店は10時なのだから。

Friday, July 11, 2008

桜島を目の前にしたロケーションで土足スタイル

鹿児島では、見るもの、聞くもの、食べるもの、なんだかすべて新鮮だった。同じ九州といっても、やっぱり違う。微妙なユルさがある。たとえば、DWELLが位置している港付近の風景がなんだか違っていた。DWELL自体も、古い石造りの倉庫を利用したものなのだが、周辺の建物も古いというか、朽ち果てかけた建物や廃ビルが多い。「モスバーガー」の看板が掛かってるけど、よく見ると窓ガラスが割れている空きビルだったりする。かと思えば、どう見ても機能してない長屋のようなバス・ステイションなのに、裏で運転手さんが美味しそうにタバコを吹かしていたりする。スラムっぽいと言ったら言い過ぎかもしれないが、アメリカのオレゴン州かなんかの風景のようでもある(行ったことはないけれど、昨夜DVDで見たガス・ヴァン・サントの映画の影響か)。不景気のせいで、新しいビルに建て替えることが出来ないのだろう。ふらふら歩いていると、目の前に4階建てのビルが現れた。3棟続きの団地である。直線だけで構成されたシンプルな構造は、マンションなどと呼ばれる以前の
モダニズムそのものだ。時間の問題で、壊されてしまうのだろう。Aging Process真っ最中という感じで、いい味がでているのに、もったいない。ENOUGHでリノヴェーションしたい!福岡から高速で3時間。雄大な桜島を目の前にしたロケーションで土足スタイル。いいと思うんだけど。Rimg0132

Thursday, July 10, 2008

今年は、うなぎ食べなくていい?

Rimg0252-2 もうじき、土用の丑の日がやってくる。日本国中の人が、強制的にウナギを思い出させられる日だ。だが、今年はひとあし先に旨いウナギを食ったから、なんとなく余裕である。先週鹿児島へ行った帰り、人吉の民芸店に寄った。なんでも、三大民芸店のひとつだと、同行の友人が教えてくれた。ただ、あとの二店がどこなのかはわからないらしい。つまり、それだけこの店は素晴らしいということなのだろう。実際、とても内容の濃い店で、日本中の良いものはもちろん、アフリカやアジアのものも置いてある。春に買った島根の舟木窯のスリップウェアの陶板の柄違いがあったりして、品の良い奥さんから色々な話も聞かせて頂くことが出来た。かれこれ2時間くらい長居をしてしまった。購買欲と、知識欲が満たされると、次は食欲である。といっても、昼飯はあらかじめ決めてある。すぐ近くにあるといううなぎ屋である。そろそろ行こうかという頃に、偶然そのうなぎ屋の女性が店にやってきた。去年亡くなったこの店のご主人が好物だったらしく、ご仏前へと小皿にうなぎを盛って届けてくれたのである。後で伺う旨を伝えると、「お昼は混み合うので、予約しておきましょう、何時がいいですか?」と聞かれる。まだ、もうちょっと見たい気もするし、30分後にお願いし、その時間に訪ねた。盆地、人吉はやはり暑い。5分ほど歩くと蒲焼きのいい匂いと共にうなぎ屋があった。ただし、そこではなくその隣が目指すうなぎ屋である。二軒並んだうなぎ屋というのも、めずらしい。でも、店の造りから言っても、どっちが旨そうかというのは一目瞭然なのだが。名店のすぐ隣に店を構えるってのは、自信があるのか、商売上手なのか・・・。早速中に入り、メニューに目を通すと、やはり並と、上がある。仲居さんによると、並でも充分とのことで、5人のうち4人は並で、ひとりだけ大柄のGさんは上にする。熱燗でう巻きをつつきながら、ひとしきりウナギ談義に花が咲く。なにしろ1人は東京、2人は大阪、僕ら2人は九州、というわけで同じうなぎの蒲焼きといっても調理法、味付けが違っている。関東はあっさりで、九州は甘口、大阪はその中間といったところか。各々、慣れ親しんだ味が一番なのは言うに及ばない。とはいっても、ウチの近くにある一応有名なうなぎ屋の甘さときたら相当なもので、もう10年ほどはご無沙汰。でも、銀座にある名店の味は、あっさり過ぎて物足りなかったっけ。で、肝心のこの店の味だが、甘からず、辛からず、とても美味しかった。そして、うなぎの量も並で充分。上を頼んだGさんは、びっしりと並んだ下にさらにもう一段びっしりといわけで、満足を通り越して「今年はもう、うなぎ食べなくていい」という状態。それにしても、うなぎ屋の雰囲気って、いい。落語的というか、庶民の贅沢というか、なんだか「民芸」にしっくり来る。つくづく、「偽装事件」は許せないと思う。