Monday, May 19, 2014

「蕗の大堂」

 
 
その夜はコンサートに誘ってくれた娘さんの紹介で、カテリーナから車で30分ほど走ったところにある宿に泊ることになっていた。夕暮れ迫るなかを、GPS を頼りに、アップダウンを繰り返しながら人里離れた山間に分け入ってゆきながら、この辺りを含めた国東半島が、古くから仏教文化の盛んな土地だったことを 想像する。なんでも、その宿は富貴寺という有名な寺のすぐ近くにあるらしい。明日が楽しみだ。
 一夜明けてみると、あいにくの雨だった。といっても、土砂降りというわけではないし、案内板で確かめると、富貴寺はこの宿のすぐとなりである。宿で借りた傘をさし、うっそうとした竹林の坂道を抜けると、ほどなく「蕗の大堂」と呼ばれる阿弥陀堂が視界に入ってきた。大堂とはいっても、見たところ幅、奥行きは6メートルほどだろうか。その上に、素晴らしい曲線を描く瓦屋根が載っている。一目見た途端に「美しい」と直感できるサイズといえばいいのか。これまで、寺にしろ神社にしろ、国宝だなんだと言われても、さして感動したことはないのだけれど、この堂の”たたずまい”は文句なしだ。普段は開いているという扉は、雨のためか閉まっていた。中には平安時代の本尊や壁画があって、もちろん見たいには見たかったが、しっとりと濡れた緑の木立に守られるようにポツンと孤立した堂を見ただけで、なんだかすっかり満足してしまった。
 


Thursday, May 15, 2014

"sing bird concert"

4月から地元のLOVE FMで番組をやり始めた。夜8時から9時半までの放送で、”音楽と旅、ときどきデザイン”というサブタイトルを付けている。毎回、旅の話をしたり、ゲストを迎えたりと楽しくやらせて頂いている。しかし、毎週、選曲から話のネタまで、ああでもない、こうでもない、と夫婦で結構アタフタもしている。なにより、生放送なので、海外への旅行がムズカシイ。「そういう場合は収録で結構です」とも言われているが、10日ほど行くとすると、戻ってきてすぐ生放送なので、最低3週分くらいの前準備が必要となり、もっと面倒になる。だから、しばらくは近場の探索を楽しむことにしている。
 そんな折、大分県は国東半島の根っこのところである野外音楽フェスに誘われ、面白そうなので行くことにした。誘ってくれたのは、もともとorganのお客さん。一人はそのフェスを主催している「カテリーナ」という古楽器を製作している一家の娘さん。もう一人は去年、九電に就職したものの「原発問題」に疑問を持ち、半年であっさり辞めた青年。ふたりは九州大学の学友でもあり、娘さんは自慢の料理で、そして青年はあぜ道の駐車スペース案内からなにからの裏方としてボランティア参加している。
 その日は、天気晴朗なれど風強く、まったくの野外フェス日和だった。田んぼの中のこんもりとした森に母屋、庭に古楽器のアトリエがあり、演奏は風が吹き抜ける庭で行われた。庭だから、とてもアットホームだし、その周りではローカルの店がさまざまに美味しい食物を用意している。子どもたちは”鳥笛”をつくるワークショップや、田んぼでの凧揚げに夢中だ。着いた瞬間に「無理がなくて、いいな」と思った。演奏はまずアコーディオンをフューチャーしたパリっぽい音のRue de Valseから始まり、続いてシンガー・ソングライター安宅浩司の見事なスリーフィンガーのギターと唄。つい、高田渡を思い出しそうになったが、無頼度もアルコール度も低いところが今的なのだ。Baronくんはエノケンや、アメリカの古いボードビルっぽいパフォーマンスで会場を沸かせくれた。そして「カテリーナ」のMiraiさんとMaikaさんのユニットbaobabの登場。フィドルを使った演奏と唄は、ペンギン・カフェ・オーケストラにも通じるし、なによりケルト音楽の匂いがする。最後はTabula rasa。こちらもフィドルが活躍するが、アイリッシュ・トラッドがベースなので、とてもじっとしてはいられない。小さなステージの前にダンスの輪が広がる。ここでも子どもたちが王様だ。気がつけば、風の冷たさが増してきた。山の夕暮れは案外早いのだ。後ろ髪を引かれつつ、宿へ向かうことにした。