Thursday, November 26, 2009

小包が届いた!

Rimg0001-2 マラケシュで買ったキリムが、忘れた頃になって、ようやく届いた。遠くモロッコからとはいえ、エアメールにしては遅すぎるし、ほぼあきらめかけていたわけで、嬉しくないわけがない。これ以上コンパクトに出来ない程小さく丸められた荷姿を見て「ハテ、これは何なんだ?」と一瞬とまどったが、すぐに思い出すことが出来た。あのスークの迷路の奥にあるハッサンの店で、さんざん迷った品である。キリムと聞いてすぐ思い浮かぶ、いかにも手の込んだ羊毛ではなく、あえてニューメキシコのナバホなどにも通じる綿のシンプルな柄を選んだのだ。
 受け取りにサインをして、手に持ってみてその重さに驚いた。まるで鉄のかたまりが入っているかのようで、片手で持てないほどだ。そういえば、買った後、日本に送って欲しい旨を伝えたところ、4枚を重ねて器用にクルクル巻きにして、あっという間に小さなかたまりにしてしまった。それを紐で縛り、秤にかけて「送料は90ユーロ」、と伝えられたのだが、こんなに重いとは思ってもいなかった。はやる気持ちを抑えきれず、すぐに梱包を解くことにした。ところが、紐のかけ方が強固でなかなか思うに任せない。縦横の紐が交差する所が全部結んであり、その結び目がまるでイスラムの連続模様のようで実に頑固なのだ。そういえば、一昔前の我が家でも小包を出すのは一大事だったようで、同じように紐で梱包していたが、今ではガムテープで事足りている。開けてみると、モロッコの大地と空の色が現れた。

Friday, November 20, 2009

ソニー・トリニトロン・カラーモニター

Rimg0078-2 「地デジ」という語感が苦手なこともあり、早晩今のままではテレビが見れなくなると知りつつ無視を決めこんでいる。高画質とかオン・ディマンドもいいいだろうが、コンテンツを何とかして欲しいと思う。どのチャンネルも、お笑い芸人と食い物ばかりが映っていては、機材をわざわざアップデートする気が起きない。一時「多チャンネルなら・・」と思い、ケーブルテレビを契約したこともあったが、すぐに止めてしまった。かといって、我が家からテレビを駆逐するわけでもない。何となくスイッチを入れ、ただボンヤリと眺めることがあるからだ。
 もうひとつ問題なのは、テレビの形状。あの薄型でサイズがやたら大きなモノをリビングルームに設置することは極力避けたい。パソコンで見るというのも手だが、ひとりさみしく画面に毒づくのも精神上よろしくない。結局また堂々巡りで、結論は先延ばし。再来年の7月が来ても、デジタル・チューナーを介したソニー・トリニトロン・カラーモニターにがんばってもらいながら、鮮明ではないアナログ画面を見続けることになるのだろうか。

Thursday, November 19, 2009

「音のある休日」#12

Scott 1 スコット・ブルックマン / ア・ソング・フォー・ミー、ア・ソング・フォー・ユー
 
 ツボを押さえたコード進行やつい口ずさみたくなるメロディーは、簡単にまねできる技ではない。例えばビートルズのポールもそうなのだが、天性とも言うべき音楽センスが関係しているとしか思えない。
 10年振りにセカンドアルバムを出したスコット・ブルックマンは46才のアメリカ人。一般的な知名度はゼロに等しいが、自宅録音ならではのフレッシュで暖かい作品に仕上がっている。自分自身とゆっくり対話しながら(時には、楽器が得意な友人を呼んで)音楽製作に打ち込む姿が目に浮かぶようだ。
 たとえヒットチャートには無縁だとしても、、好きな音楽をやり続けることは、うらやましい限り。それこそ、簡単に真似できることではない。(西日本新聞 11 月 15 日朝刊)

「音のある休日」 #10

Combo-1 クァンティック・アンド・ヒズ・コンボ・バルバロ / トラディション・イン・トランジション
 
 イギリスから南米コロンビアに移り住んだクァンティックことウィル・ホランドの音楽を、一言で表すのは難しい。 様々なラテン・リズムを核に、アフリカ、アラブ、インドなどの音楽をミックスし、ファンキーでサイケデリックに料理しているからだ。いずれの曲も、その「洗練されすぎなさ」が魅力のダンス・ミュ−ジックである。
 ワールド・ミュージックと呼ばれる音楽は、もちろん国家別に存在するのではない。もっとローカルな色合いを持つものだ。互いに影響を受けながら変化してゆく様子こそスリリングなのだ。他者を拒否するのではなく、おのおのが持っているリズムを面白がることは、音楽の世界では大昔から当たり前。ゴキゲンに悲しい熱帯のグルーヴだ。(西日本新聞 10 月 18 日朝刊)

Friday, November 13, 2009

「何ぞテキトーな牛の絵ありまへんか」

『小早川家の秋』は、小津安二郎の映画の中では最後から数えて2番目の作品になる。様々な事情から、所属していた松竹ではなく、宝塚(東宝)で撮られている。そのためか、いつもとは違った気配がある。まずいつもの東京弁ではなく、関西弁、京都弁というだけで、なんだか勝手が違う。その上に、あの小津独特の抑制された様式美が、松竹以外の俳優の参加で少なからず攪乱されている。なにより中村雁治郎演じる老人の酔狂振りである。しかし、そこは歌舞伎役者、京都の粋を感じさせてくれるから楽しむことが出来る。問題は、映画冒頭と途中にだけ顔を出す森繁久彌のバタ臭い関西人振りである。鉄工所の社長である森繁が原節子演じる画廊勤めの未亡人に、「何ぞテキトーな牛の絵ありまへんか」と露骨に交際を迫るシーン。普段アートなどには無縁な町工場のオッサンのえげつない感じが出ていて、観る度にギョッとしてしまう。隣にいるのが加藤大介という、まるで「社長シリーズ」そのままの構図なのも皮肉だ。小津自身は達者すぎる役者はダメだったようで、ましてアドリブが得意という森繁久彌を自分の映画に出演させることにはかなりの抵抗感があったとのこと。でも、そんなことを承知の上で怪演技を披露するのは森繁ならではパフォーマンスだ。バーのカウンターで、あんなにつまらなさそうにピーナツを口に放り込む仕草は、もう誰にも真似できないだろう。

Wednesday, November 11, 2009

PENDLETON

Rimg0017 冬が近くなるとチェックが着たくなる。ブラックウォッチや鮮やかなチェックもいいが、アメリカ中西部の農夫が着そうなボンヤリ柄のペンドルトン。できれば茶系アースカラーのユーズド、乾燥機でキュッと縮んだやつが欲しい。
 ペンドルトンといえばネイティブ・アメリカン風のブランケットも有名だけれど、アレッと思ったのは60年代にビーチ・ボーイズが着ていたってことだ。ストライプの半袖シャツがトレードマークだと思っていたのだが、CDを見ると、確かにサーフボード片手に全員がブルーのペンドルトン姿である。別名”ペンドルトンズ"とも呼ばれていたという話もあるくらいだが、企業タイアップだったのかもしれない。田舎っぽいシャツが、当時のカルチャーと一緒になって最新ファッションに変わったってことか。
 つい先日、街ですれ違った女性。白のペインターパンツにボーイズサイズのペンドルトン。思わず振り返りたいほどキュートだった。その後、organによく来ていただく小柄なお洒落さんも同じペンドルトンを着ていたことが判明。きっと、どこかのショップがサイズを今風にアレンジして別注で作ったにちがいない。あの大きなフラップ付きのポケットや、とんがった襟はまちがいない。
 それにしても、チェックというのは世界中に点在している柄。スコットランドはもちろん、アジアにも、アフリカにもある普遍的なモチーフのようである。時にはザズーやパンクスみたいにアンチな人たちのシンボルになってしまうところも面白い。難点はただひとつ、すぐに飽きてしまい、また別のチェックに目移りしてしまうところと、着るとやっぱり似合わないところか。それでも、夏にはやっぱりマドラス・チェックを探してしまう。結局、季節に関係なくチェックが好きなだけの話なのだ。

Friday, November 6, 2009

唐津くんち

Rimg0100-1 一昨日、パリから戻ったばかりのユカリンと一緒に、唐津くんちへ行ってきた。つい10日ほど前はマレあたりを一緒に歩いていたのに、日を置かず今度は唐津で再会。活動的な人なのだ。彼女の友人である老舗呉服屋の若旦那のお誘いで、4軒ものお宅をハシゴしてしまい、美味しい手料理を堪能した。
 まずは昼からS邸でアラの刺身。唐津くんちといえばコレだ。今まで「アラのようなもの」しか食べてなかったことが判明、その堂々とした本物の魚振りに驚いた。味は脂がのっているのにさっぱりしている。他にも生きのいい魚が一杯。シャンペンとワインで昼間からすっかりいい気分だ。続いては川島豆腐へ。いつもの入り口ではなく、豆腐工場を抜けて裏にある秘密の会場へ。ここではローストしたアグー豚をいただいた。沖縄産らしく、中国原種との交配種とのこと。優しい甘みがクセになりそうな味である。そして大将が丹精した唐津限定の新米のおにぎり。塩も付いてないのに、一粒一粒が甘く香ばしい。あまりの旨さにぬか漬けと一緒に2個パク付く。ここで、一旦ホテルのチェックインを口実に、シャワーを浴びて小休止。なにしろ、お腹いっぱいなのである。
 それにしても、豊穣の祭りらしく、皆さんよく食べて飲むし、よく喋り冗談も達者だ。博多の山笠とは明らかに違う。次のお宅へ伺う途中でようやく遭遇した曳き山も、勇壮というのではなく、子どもやお年寄りが一緒になってソロリソロリと練り歩くのだ。そのお宅では、家庭料理をいただき、何人かの福岡の知り合いにも会い、ビックリ。みんなが誰かのつながりで偶然集うのも嬉しいことだ。唐津くんち独特のかけ声「エンヤ」が、なんだか「(コレも何かの)縁や!」に聞こえてしまう。最後は洋々閣へタクシーで乗り込み、泊まり客も一緒に座敷で車座。巨大なアラの煮付けが旨過ぎる。隆太窯の太亀さんもすっかり出来上がっているようだ。
 唐津くんちは正月よりも盛大だとのこと。そういえば、伺ったお宅ではどこも最後にかならず「来年もぜひいらしてください」との言葉が添えられる。あるおじいさんは「良い年を!」とまでおっしゃった。美しい晩秋の一日が足早に暮れていった。

Monday, November 2, 2009

素足のサイズ計測

Rimg1173 オテル・ドヴィルの前にあるBHVでユカリンと待ち合わせて、マレの方角へブラブラ散歩していたらANATOMICAの店の前を通りかかった。80年代半ば初めて訪れたパリではフレンチアイビーの牙城だったHEMISPHEREへ行くのが目的のひとつだった。そのオーナーだったピエール・フルニエ氏が90年代にビルケンシュトックをメインにしたショップを開いたことは知っていたし、確かその後一度は訪れたはずなのだが・・・。 
 イソイソと店内に入ると、エレファントスツールのオリジナルが置いてある。先日Pucesで見かけたものの、つい買い逃してしまったのと同じジェット・ブラックで、いい感じに色あせている。店内はさほど広くもなく、日本のワラジや古いかすりが置いてあったりしてなかなか興味深い。しかし、目は壁に引っかけてあるオールデンのダーティーバックスに釘付けだ。サイズの有無を尋ねると、ピエール氏が地下のカーヴにストックを調べに行ってくれたが、あいにく9.5インチしかないらしく僕には大きすぎる。ブラウンなら小さいサイズがあるのだが、さて・・・、と逡巡していたら、「足のサイズを測りましょうか」とのお誘い。レッドウィング社の古いフィッティング・ゲージでムッシューじきじきに計測してもらうのもいい経験だと思って靴を脱いだ。
 僕は、「多分8.5のDかEだと思う」といったのだが、結果は8のDらしい。ところが、ムッシューは「靴下を脱げ」という。確かにちょっと厚めのソックスを穿いてはいたが、それにしても慎重な人である。気恥ずかしかったが、いわれるがままに冷たい金属のゲージに足を置くと、ムッシューはその細い指で僕の素足を台座にキチンと固定し、おもむろに「まちがいない、お前は8のDである」と宣言した。昔の僕なら、ここで観念してブラウンを購入したのだろうが、今は違う。やはり、ダーティーバックスが欲しいので、と断った。そのかわり、濃いブラウンのシェットランド・セーターをいただくことにして店を後にした。