Monday, January 21, 2008

ナナの杖

ナナ・ディッツェルがデザインした杖を買った。以前、コペンハーゲンから1時間くらい離れた小さな町の美術館で見たその杖が忘れられなかった。まさか商品化されているとは思ってもみなかったので、福岡にあるセレクト・ショップで見つけた時はビックリした。すぐ買うべきだと思ったが「使うには、ちょっと早いか」、と考え一度はあきらめた。
 大学生だった頃、『音楽専科』という雑誌に、ザ・バンドの記事を寄稿させてもらったことがある。その時雑誌社が準備してくれたメンバーの写真を思い出した。5人が、ベンチに座っているのだが、そのうちの何人かが杖をついている。全員くたびれたスーツに髭づらで、どうみても早すぎたご隠居風情(実際には、みんな30代ソコソコだったはず)で、それがなんだかとても格好良く見えた。もうひとり、思い出したのはドクター・ジョン。『ガンボ』というアルバムのジャケ写で、ドクターことマック・レベナック氏がご大層に杖をついている。その後、小さなライブ・ハウスで彼の流麗なニューオリンズ・ピアノを聴く機会があったが、やはり杖を突くほどの年齢には見えなかった。
 
Rimg0078 どうも、当時の僕には ローセイにあこがれていたフシがある。東京の6畳間借りに身を置いて、遠いアメリカの音楽に焦がれるには若さが邪魔をした。金もなく、恋愛も成就出来ない自分には、厭世した気分が必要だったのだろう。毛薄いくせに、むりやり伸ばした髭はいつまで経っても貧相なままだった。そういえば、同時期に音楽を始めたはちみつぱいの鈴木慶一氏の髭も相当寒かった記憶がある。
 そして、気が付けば年月は勝手に流れ、いつまで経っても年相応の分別があるのかないのかすら判然としない状態。ということは、このままの調子でずるずると、しかし確実に「杖を頼りに歩く日」がやってくるわけである。これはいい機会に違いない、と意を決して再度店を訪ねると、幸運にもセール中。ナナの杖も半額になっている。あらためて見ると、2種類の木を積層にした丸い握りの部分がとても美しい。買わずに後悔しないように、まさに「転ばぬ先の杖」、今度はまよわずゲットした。次回の買付ツアーに携えれば、うまく行くと空港で優先搭乗の恩恵にでもあずかるかもしれない。

Sunday, January 13, 2008

スタンリー・スミス

僕は、けっこう長い間(なんと19年!)、レコード店に勤めていたことがある。メジャーなものから、かなりマニアックなものまで置いていたちょっと変わった店だったと思う。今でも時々、その当時のお客さんが来てくれることがあって、そういう人はやっぱり少しこだわったCDを探していることが多い。でも、今の店で置ける数には限りがあるし、要望に答えているとは言い難い。
 で、たまに「誰々、もしくは何々みたいなCDありませんか?」という質問を受けることがある。一見、簡単そうだが、これがなかなか難しい注文なのである。単に声質や演奏スタイルの類似性などで勧めると、たいていの場合失敗する。なぜって、その人が気に入っているアルバムは、とても気に入っているわけで、それと似たものを提案しても、それを越えることはあり得ないからである。
 昨日、東京の友人から焼き付けのCDが届いた。白いラベルに手書きでアーティストとアルバム・タイトルが書いてあり、コピーされた曲目リストが同封されているが、その他手紙らしきものはない。いろんなミュージシャンのマネージメントをしていた人で、最近はいろいろあって、ちょっと元気がないことをつい最近再会して知ったばかり。たしかその時「今度、CDでも送るよ」、と言っていたのである。
 スタンリー・スミス(1)という、そのアメリカのシンガー&ソングライターの音楽を聞いたのは初めてのはずだった。なのに、この声、ギターは何度も聞いた覚えがある。"Nashville Skyline"のボブ・ディラン, ”The Heart Of Saturday Night"のトム・ウェイツ、あるいはJ.J.ケール?夢中で聴き進むうち、8曲目の口笛が入ったウェスタン・スウィングになって「なんだ、ダン・ヒックスだったんだ」、と一人で納得した。
言うまでもないことだが、このCDが誰かに似ているからという理由だけで好きになったわけではない。ひよっとすると、雑誌で見たり、レコード店で試聴してもつい買いそびれていた一枚かもしれない。多分、友人からの贈り物であるということがあると思う。その人は僕の好きな音楽を、多分、知っていてくれている。そして、僕らがいつのまにか年を取ったことや、かならずしも思い通りにゆかないことなんかがあるってこともわかっている。実際、友人からの情報って、時々グッと来るものがある。
 というわけで、このCDは近々ウチの基本在庫に加わる予定だ。そこで、もしお客さんから「誰々が好きなんですが・・・」と聞かれるとして、それは一体誰なんだろう?、と考えてみた。で、思い当たったのはハース・マルティネス。彼を好きな人は、きっとこのアルバムも気に入ってくれそうな気がする。永遠のスモーキー・ヴォイスに乾杯だ。
Stanley Smith






(1) 1960年代にはパリでの路上ライブ、70年代にはインディアナポリスでカフェ&バーを経営するという放浪のミュージシャン。57才でこのソロ・デビュー作"In The Land Of Dreams"(BUFFALO LBCY-305)を発表。

Friday, January 11, 2008

アーモンドのボディーソープ

海外に行くたびに、せっかくだから友人への土産は日本で手に入らないものを、とリサーチする。
ドクターブロナーのマジックソープは、その縁で自分自身がはまってしまった典型的なアイテム。
 一昨年のN.Y.行きが決まった際に、ここの「ユーカリ」と「アーモンド」2種類だけなぜか正規輸入されていないから、それを土産にできると意気込んだはいいものの、そう簡単に狙いを定めたアイテムを購入できるなんて、甘いものではない。
本来の用事の合間をぬってスーパーやドラッグストアなどに飛び込もうとすると主人に露骨に嫌な顔をされ、私のトロい性質を十分に知った彼は「ここは10分ね」と時間を打ち切られる。わかってますよ。
 結局その時は、このアイテムを現地で見つけることができず断念。帰国後、「ユーカリ」をインターネットであっさり購入してしまう。ちょっと味気ない顛末、ともあれ、これを使ったところ、わざとらしくない良い香りとその効果にノックアウトされた。顔も身体も一緒に洗えるところが嬉しかったこともある。
以後、ほとんどの種類を試し、どれも気に入ってしまっている。
個人的にクレンジング効果と保湿&サッパリ効果は「ミント」にあり、と、切らしたことがない。


8110 Murmur すっかりあたりまえのバス・アイテムとして気分も落ち着いていたのだけれど、先日観たDVDで、映画の主人公が固形のアーモンド石鹸を使うシーンがあり、それをきっかけに、まだ自分が「アーモンド」を使っていないことを思い出した。こうなると、早く今だ試していない「アーモンド」を購入したい。でも、まだ我が家のバスルームには4種類のマジックソープたちが冬の寒さで白く凝固しながら並んでいる。これらも結局我慢できなかった私が次から次に購入したからなのだけど。
我慢性のない自分を大人げないな、と思いながらも、今日もまた、インターネットの商品ページを開いては、カートボタンのクリックを寸前のところで我慢している。t.t.

Saturday, January 5, 2008

ロクヨン

ロクヨンが好きだ。といっても、焼酎のお湯わりのことではない。正確には60/40、コットン60%にポリエステル40%。60年代にアメリカのアウトドア・メーカー、シェラが開発、製品化したマウンテン・パーカーの素材のことである。それまでにはなかった、バックパッキングにもOKという全天候型ツールを提案したわけで、日本を含め世界中で大ヒットした。 

 でも、実際にはほとんどが街歩きに使われたのかもしれない。記憶をさかのぼると、70年代、雑誌ポパイで、ヘリンボーンのジャケットとフランネル・パンツの上に羽織るスタイルが紹介されていて(1)、その組み合わせの妙に唖然としたものである。アーバン風アウト・ドア・スタイルというわけだ。でも、まねをしても、なぜかしっくりこない。街には背広の上にパーカーを羽織ったサラリーマンがたくさん闊歩していた。そうして、僕はそのパーカーの存在をすっかり忘れてしまった。
 
 ところが、ここ十年ほど、このパーカーは、買付旅行にはなくてはならないギアになっている。突然の雨にもフードをかぶれば傘なんていらないし、極寒でも下にフリースを着れば大丈夫。おかげで、過去の買付写真を見ても、いつもシェラ姿。4色持っているのでローテーションはしてるけど、たまには洒落たジャケット姿で行きたいと思う。しかし、いざ出発当日になると、やっぱり着慣れたパーカーを選んでしまう。転ばぬ先の杖、というわけだ。

 
Rimg0144-1 もうひとつ、60/40生地で好きなのが、ノース・フェイスのダウン・ジャケット。ヘビー・スモーカーとしては、ナイロン素材だといつウッカリ穴を開けないかと心配だし、なによりも良い具合に生地が馴染んだ、いわばパティーナとでも言いたいようなユーズド感が好きなのである。ただし、サイズが大きくて困る。メンズのSならサイズとしてはちょうど良いのだけれど、アームホールがでかく、なんだかワンダーフォーゲル部みたいに本格的すぎる気がしてしまう。で、ある時見つけたレディースのL。ダウンの量もあまりパンパンではなく、全体にスリムに仕上がっている。ちょっとくすんだブルーも、昔なら二の足を踏んだに違いないが、今ならOKである。前合わせが女性向けに右なところだけが難点だけど。
 
 それにしても、温暖化の影響なのかこのところダウンを着るほど寒い日は少ない。どうかすると、1月か2月に2,3回着ただけで押し入れにしまってしまうようなこともめずらしくない。でも、年末の寒波到来でとても重宝させてもらった。30日のパーティーにも着ていった。久しぶりに会う友人達と過ごす時間には、なつかしい60/40の素材がピッタリだったと思う。友情も服もスタンダードが一番だ。今年も一年、息災にゆきたいもの。


(1)マガジンハウスのスタイリスト北村勝彦氏によるコーディネイトは、当時「ワイルド・シック」などと呼ばれ、その後、原宿に出したセレクト・ショップ、「リトル・アイランド」はあこがれの店だった。モデルも彼自身がやっていて、かっこよかった。