Friday, August 31, 2012

『世界の車内から』

旅に出ると、いろいろな乗り物に乗ることになる。高度10000mをマッハに近い速度の飛行機は、出来れば乗らずに済ませたいところだが、こればかりは仕方がない。空港から乗るタクシーも「ボラれはしないか?」などと思うと落ち着かない。メトロは乗り換えが煩雑だったり、地下道がおしっこ臭かったり、何より真っ暗闇ひた走り、地上に出たら地図とにらめっこしなきゃ方向がわからない。その点、景色を見ながらのバスはいい。コミさんみたいに目的なしにとりあえず終点まで、なんていうのをやりたいけど、そうもいかない。路線図が複雑だったりと、ジモッチ並に乗りこなすのには時間がかかる。トラムはのんびりで好きだけど、走っている都市が限られる。そこでボクのおすすめは2時間くらいの列車の移動。今回もアントワープを起点にして、ブリュッセルまで1時間、おとなりオランダのアイントホーフェンまで1回乗り換えて2時間、たっぷり『世界の車窓から』を楽しんだ。ゆるやかな平地と緑。牛や羊が放牧され、小川が流れ、雲がたなびく様子を飽きることなく見ていると、ちょうどいい時間が過ぎてくれる。それに、TGVやThalysなどと違ってローカル線にはいろいろな車両が、それもちょい前の時代のものが走っている。今回のお気に入りは、まるでジャン・プルーヴェみたいな椅子を備えたもの。車内のデザインにはお国柄があらわれて楽しい。特にいろんな国をまたがるEU圏は面白いと思う。

Friday, August 24, 2012

美しいと思ったらそれが廃材だったんだ。



 オランダ南部の街アイントホーフェンにあるピート・ヘイン・イークの2階ショールームからは、家具製作をしている「現場」が丸見えだ。というか「さあ、ドーゾ見てください」という感じ。フィリップスの昔の工場を使って、ショールーム、セレクトショップ、レストランを運営しているわけで、なにより広いし、それに古びたレンガとガラスの建物が抜群に良い感じ。もちろん、いくら器が良くったって使う人次第。しかし、そこはPHEさん、レディメードの良さをしっかり残しつつ、野暮な手は加えていない。ダイナミックで風通しがすこぶる良く、当然「売らんがため」の「可愛らしい」ディスプレーとは縁がない。工場の高い天井には”WE","HE","SHE"という大きなサインがぶら下がっている。労働者のためのスローガンにしては、なんと気が効いていることだろう。そんな環境で製作された家具は思っていた以上に種類が多く、彼が単なるワン・ヒット・ワンダラーじゃないことがうかがえる。値段もレンジが広く、(ボクも買ってしまった)スツールがEUR190から(ゴミ箱はもっと安い)、手間がかかったであろう大物はEUR3500ぐらいなど選択肢も多い。セレクトショップの方は、さながらジェネラル・ストア並の品揃えが楽しく(ボクはハーモニカを買った)、そして一角には(PHEと立ち位置が近い)トム・ディクソンの部屋があるという次第。ところで、彼の代表作である廃材を使った椅子や家具だが、ピートはインタビューで(だいたい)こんな風なことを言っていたっけ。
「廃材だから美しいと思ったわけじゃなく、美しいと思ったらそれが廃材だったんだ」。

Friday, August 17, 2012

河崎さんのトークショー ”LAにいた頃はサーフィンなんかしなかった”

河崎さんがLAに住み始めたのは2000年。そこを拠点に、世界中を駆けめぐってアーティストや財団と直接交渉をして200人を超える作家の作品をTシャツとして発表した。その中には、バウハウスやイームズ、ウォーホル、バスキア、奈良美智など、あなたがきっとどこかで目にしたものもあるはずだ。そんな彼のオフィスには山ほどの本資料があった。ダブってるのもあるからと、そのうちの幾冊かを分けてもらったことがある。そんな中で、ひと目で気に入ったのがマーガレット・キルガレンの作品集だった。とてもパーソナルなタッチで描かれた木や葉っぱやバンジョーとタイポグラフィ、そして彼女が住んでいたサンフランシスコ、ミッション地区のユーモラスでちょっと悲しげな人々。それは、巨大なアメリカにひっそりと息づくコミュニティに目を向けた彼女独自のフォーク・アートだった。そんな彼女が夫であるバリー・マッギーの個展のために来日した際、河崎さんは二人を由布院に誘い、最初で最後の九州の旅が実現した。その後、彼女は34歳という若さで癌のため亡くなっている。河崎さんの自宅の居間には、温泉でくつろぐマーガレットの素描が掛けられている。手術かお腹の子という選択に、迷わず子供を生むことを選んだ彼女は、作品に登場する女達のようにたくましい。
24日(金)「夜間学校in春吉」での河崎さんのトークショー ”LAにいた頃はサーフィンなんかしなかった” がとても楽しみだ。開場では、ストリート・アートなどの貴重な作品や資料なども展示される予定。その上、来場者にはジェフ・マクフェトリッジのマグカップをプレゼントするらしい(前回に続く、太っ腹なゲストである)。ご予約はorganまで。

Wednesday, August 15, 2012

YABU ONE MAN SHOW @ THEO GALLERY IN ANTWERP

アントワープでの藪直樹の個展は、大交易時代からこの街のかなめだったスヘレデ河に面するTheo Galleryで開催された。去年初めて訪れ、とても気に入ったこともあり、藪さんのヨーロッパ・デビューがこの街になったと聞いて、俄然再訪することを決めたのだ。ブリュッセルを含め、ベネルクス3国には未知のデザイン・ソースもありそうだし、なにより大小様々な蚤の市があることも魅力のひとつだった。
 日本から送った絵のうち、大きな号数のものが3点届かないというアクシデントもあったけれど、高い天井と白にペイントされたレンガ壁にハングアップされた作品はとてもヴィヴィットだった。いい場所を得たことで、なんだか絵達が幸福そうに見える。彼の絵は、思った通り、ヨーロッパにお似合いだ。日本から駆けつけた「蝉」の岡崎さんのギターがソフトでサイケデリックな音を奏で始め、ライブペインティングが始まった。と、やにわに床に敷いた3枚の大きなキャンバスをラフな円錐形(というか倉俣史朗のランプみたいな形)に折り始める藪さん。「オヤ、今回は立体かな」と思ったら、上から絵の具をドリッピングし始めた。そして描き終わり(垂らし終わり)、キャンバスを広げると、そこにはなんとも自由で偶発的な世界が拡がっているではないか。
 最初からこういう感じでやろうと計画していたの?」と聞いてみた。「いや、直前になって今日は短時間で、まったく意図を持たずに、キャンバスの適度な硬さを利用して、しかもポロックみたいにたくさん垂らさずにやろうと。買ったばかりのブーツに絵の具が垂れないか気がかりだったし....」。まったく、この人は日本にいる時と同じテンションでこの街にいるってわけだ。アッパレ。もうすぐ風船画伯を追い越すぞ。