Thursday, June 13, 2013

オレゴン州の自然は変化に富んでいる。

 
ポートランドのダウンタウンから車で1時間も走るとコロンビア川の雄大な渓谷が眼の前に広がり、そこから内陸へ向かうと1時間くらいで州の最高峰マウント・フッドの中腹へ着いてしまう。その間、ポートランドでは雨だったのが次第に曇りへ、その後少し晴れ間が、と思ったら山道は雪まじり。天候がめまぐるしく変わる。この季節での積雪にびっくりしたのだが、ここは一年を通してスキーができるのだそうだ。そうそう、ここのスキーロッジは映画『シャイニング』の冒頭で使われているんだった。キューブリック・ファンとしては見逃せない。実は、あまり期待していなかった内部が、とてもおもしろかった。1930年代にルーズベルト大統領のニューディール政策の一環で建てられた「山小屋」は、木材、鉄、織物などすべて地元の材料と職人を使ったローカル製。そのどれもが、アメリカならではの骨太なクラフト感にあふれ、ネイティヴなモチーフと、白人開拓者のラフネスが不思議なハーモニーを奏でていた。ところが、そこから東へひた走ると、風景は草原から次第に乾燥地帯へと変化してゆく。このへんまで来ると、いかにもアメリカらしい空がズズーンと広がり、雲の形もさまざまで見飽きることがない。「子供の頃、西部劇で絶対見たことがあるゾ!」と、思わず呟きたくなる景色のオンパレード。そんなドライブでは、音楽が欲しくなる。今回は抜かりなく、けっこういろんなCDを持っていった。ポートランド出身で今はドイツで活動するピーター・ブロドリックに、LA出身シュギー・オーティス、そしてヴァン・モリソンのアメリカでのコミューン暮らしの佳作『テュペロ・ハニー』も良かった。でも、一番聴いたのはIWAMURA RHUTAの『SUNDAY IMPRESSION』という発売前のサンプルCD。ぜんぶの曲が1分台の小曲12曲、全部合わせても17分のアルバムをカーステレオでひたすらリピートモードにして聴いていた。みどり色の風景に、ピアノの音がしっくり溶けこんでいたからだ。日本へ戻ったら、タイミングよくそのCDが発売になった。もちろんorganでも絶賛発売中。ジャケットはNoritakeさんのイラストです。

Saturday, June 8, 2013

自覚的に選びとったweird


初めて"weird"という単語に出くわしたのは、90年代にプチグラ・パブリッシングから出た『weird movies a go go』という映画本。辞書によると「奇妙、変」という意味だけど、それならstrangeやbizarreがあるではないか、きっとニュアンスが違うはずだと、たまたま、その本の表紙が贔屓のピーター・セラーズだったこともあり、大いに気になってしまった。そして今回、いわばweirdを自認する街ポートランドへ行ってみて、思い当たるふしに遭遇。空港にあるレンタカー会社のカウンターでのことだ。
 ひとり先客が手続きをしていた。相手をするスタッフは丸顔にネクタイ、まるで少年のようだ。綺麗に撫で付けた髪に小さな口ヒゲ。待てよ、その真っ黒なヒゲがなんだか不自然、とすぐに気がついた。少しポッチャリしたなで肩の彼は、まごうかたなき彼女なのである。それにしても、テキパキと仕事をこなしてらっしゃる。しばらく待って僕らの番になった。つくったような低音の声が芝居じみてたけれど、契約の方はとてもスムーズに終えることができた。
 ポートランドはとてもリベラルな街だといわれる。しかし、オレゴン州全体となるとどうだろう。ウィラメット川流域の都市部を別にすれば、カスケード山脈から東は圧倒的に保守層。様々な事案が常に拮抗するのが現状らしい。たとえば同性婚だけれど、2006年だったかいったんは認められものの、その後、くつがえされたはずだ。知的でクール、緑に囲まれ、エース・ホテルやスタンプタウン・コーヒー、自転車通勤の普及、全米一治安の良い街というのは、あまりにキンフォーク・マガジン的な見方なのかもしれない。誰しも看過できるような異態を晒すレンタカー屋のスタッフが、こっそり闘っている街でもあるのだ。あのチャップリンのようなちょび髭は、単に「変」とみなされるされることを拒否した彼女が、自覚的に選びとったweirdな手段にちがいない。ちなみに、写真の女性はスタンプタウンのスタッフで、本文とは関係ありません。

Tuesday, June 4, 2013

”Keep Portland Weird"

 


ポートランドで泊まったホテルは、ダウンタウンの南、州立大学が点在する地区にあった。着いた翌日、そこから歩いてMAXと呼ばれる市内をほとんどカヴァーするトラムの停留所へ向かう途中に、本の背表紙を模した大きな壁が目に入った。そこには、カート・ヴォネガットやレイモンド・カーヴァーなど、とてもアメリカ的な作家の名前に混じってマルセル・デュシャンもあった。カーヴァーはいくつか読んだかもしれないが、あまり記憶が無い。ヴォネガットは30代だったか、夢中になって読んだし、なかでもそこにもあった『スローターハウス5』は大好きな作品で、ジョージ・ロイ・ヒル監督の映画もなかなか変で良かった。時空を超える主人公の話は、奇想天外だが、死がありふれた事であり、アメリカ合衆国が多くの小国に分裂した未来を描いていた。そういえば、第二次大戦末期、ドイツで起きた「ドレスデンの絨毯爆撃」という事実を知ったのもこの本だった。つまり、僕には冴えた小説だった。一方、フランス生まれのマルセル・デュシャンは、パリの「いかにもアート」な世界に嫌気が差して米国に渡り、便器にサインをして『泉(or噴水)』と名付けた作品でセンセーションを起こした御仁。「レディメイド」と称して、既成のモノを再利用することで「創造性」という、いわば芸術のへその緒を、あっさり切っちゃった人だ。そんなこんなを思ったのは、この一見バカげた壁が、ポートランドにとてもお似合いだったからだ。なにしろ、あちこちで”Keep Portland Weird"というスローガンを目にする街なのだから。