Sunday, April 25, 2010

「電波OKのところを見つけました」

武居さんLast Photo 今年の春は雨がちで寒かったり、なんだか憂鬱な天気が多かった。春って、実はとてもシンドイ季節だと思う。花咲き乱れ、希望に胸ふくらむ季節なんて言われるが一概にそうとはいえない。「春に逝く」という言葉があるように、いなくなってしまう人も案外多いからだ。父も母も亡くなったのは3月だし、友人の1人もそうだった。それなりの年齢だった父や母の場合は仕方がないが、僕より少しだけだが若かった友人の、それも突然の死はけっこう応えた。エッセイなんかで「親しい友が、先に逝ってしまうことの悲しさ」みたいな文章を知ってはいたが、いつしか自分もそんな年齢になってしまったのだと思い知らされた。ところが、あろうことか、その友人の4回忌に当たる日に、もうひとりの友人が逝ってしまった。二人はお互い友人で、病気が見つかったのも同じ3年前。2ヶ月とあまりに呆気なかった友人に対して、彼は3年間がんばったのだが、それにしても同じ命日になってしまうとは何とも不思議だ。カメラマンだった彼は旅とシャンペンが好きで、その柔らかい物腰で女性に優しかったし、パリではゲイにもモテた。20年以上前、初めてバリ島へ行ったのも彼の薦めがあったからだ。仕事をからめて旅をする名人で、「好きなことしかやらない」というスタンスがみんなからも羨ましがられていたものだった。そんな彼が手術も出来ないほどの病巣をかかえ、幼い子供達へ少しでも思い出を残そうとマウイ島へ行くと聞き、スゴイなーと思ったのは去年の夏のことだった。ほぼ毎日アップされる彼のブログからは、大好きだった海をじっと眺める様子がうかがえた。最後のブログは亡くなる一週間前。ちょっと不思議な言葉が残されていた。「電波OKのところを見つけました。ちょいと離れていますが、、、。とにかく、これでバッチ・グーです」。新しもの好きで、誰よりも早くi Phone を手に入れていた彼のこと、きっと彼岸でも素敵なWiFi環境を見つけたに違いない。まれに見るオプティミストよ、さようなら。

Thursday, April 22, 2010

「音のある休日」#22

「カーリ」 アレハンドロ・フラノフ

Alejandro Franov Khali インドのシタール、パラグアイのハープ、アフリカのムビラ(親指ピアノ)などを使い、アルゼンチンのマルチ・ミュージシャンが演奏するCD。しかし、一昔前の民族音楽とは一線を画している。いわば、彼の内なる世界を漂うような感覚といえばいいのか・・。時々聞こえる女性ヴォイスがある種の浮遊感をたたえていて、いつまでも浸っていたくなるようなサウンドである。
 フラノフの名前は、ファナ・モリーナという同じアルゼンチンの女性アーティストのアルバム制作でも知られている。マニアックなのに広がりがあって、様々な風景を連想させてくれるところが魅力。タイトル「カーリ」とは、フラノフの祖父の故郷クロアチアにある島名だとのこと。まるでロードムービーのようだ。
(西日本新聞 4 月 11 日朝刊)

Saturday, April 3, 2010

「ごめんやす」

Rimg0035-1 大阪はやっぱり濃い。又そこが面白い。それにくらべると、東京は一見アッサリ。でも、日本中の野心家が集まっているやもしれぬから、ちょっと用心しながら付き合う。大阪は地の人が多いせいか、初対面でもドンドンつっこんでくる。まあ、今さらの東西分析をしたところでしようがないのだが、今回の旅で、僕自身もやはり関西以西人であることを思い知った次第。
 午前中に着いて、まずは懸案だった家具屋を見学へ。京阪に乗って下町風の駅で降り、商店街をテクテク歩く。ユニークな看板が愉快。「頭のプロフェッショナル」って、脳科学系かと思いきや理髪店だし、「生まれたてのパン」ってのも言い得て妙。途中で地図を見るため立ち止まっていると、おばさんが「なんか探してはるの?」と親切な声かけ。くだんの家具屋を尋ねると「すぐ先にポリボックスあるから」と、パンクな返答。交番で地図を指し示すと「ああ、最近よーけ人が来てるとこやろ」と、お巡りさんも話が早い。目当ての家具屋は、カフェや自宅と隣接した一画を占めていてまるでちょっとしたコミューン。オリジナルの家具も良かったけれど、なによりもそのプレゼンスに驚いた。
 お昼はH氏に案内され、彼が20年前から通っているという梅田の商店街にあるお好み焼き屋へ。しっかりボディのトラッド味を堪能したのだが、焼きそばの食べ方がユニーク。それだけでも美味しいのだが、あえて溶き卵に浸けて食すのがH氏の定番らしい。もちろん、裏メニュー。まるですき焼きのようで、不味いわけがないが、ちとくどいかも。食べ終わり、狭い通路を出口へ向かう途中で店主らしきおじさんとすれ違いざまに聞こえたつぶやきが忘れられない。低い声でひとこと、「ごめんやす」。待てよ、これってパリで以前よく聞いた「パルドン」に近くはないか?最近はめっきり聞かなくなったけど・・・。

Thursday, April 1, 2010

念願かなう。

Rimg0192 大阪へ行ってきた。久しぶりだったこともあって、とても面白かった。信頼している友人達オススメのショップを訪れ、オーナーやスタッフと話をし、様々な刺激を受けることがとても大事なことだと、今さらながら思った。商品構成はもちろん、ディスプレイ、接客(というか、応対)、なによりもその店ならではの「視点」みたいなことなのか。ひとつひとつを挙げるときりがないのだけれど、たとえばgrafで見た岡田直人の陶器。以前から「一二三(ひふみ)」という、直火OKな調理鉢が好きでorganでも取り扱ってきたのだが、今回初めてテーブルウェアをまとめて見ることができた。ヨーロッパ陶器の影響下にあっても、どこか日本、もしくはアジア的な気分が感じられ、とても惹かれた。やはり、白い釉薬というのは奥が深い。白といっても、作家によってその白は自分だけの色なのだ。もうひとつ、やはり陶器作家なのだが、こちらはおもにオブジェ、それも鳥が素晴らしい。以前grafの壁一面を飾っていた鳥たちに魅了され、いつかorganでもぜひ取り扱いたいと片思いしていたRIE ITOの作品だ。北欧陶器に対するバランスの取れた姿勢が感じられ、そのうえに彼女が抽出した造形センス(それもやはりアジアの美意識といっていいような気がする)が加わっているのだからタマラナイ。また、陶器のボタンやブローチなどのアイテムにも確かな手の跡が残っていて、女性ならずともつい触手が伸びてしまいそう。念願だっただけに、取り扱いが始まりとても嬉しい。ただし、ひとつずつ手仕事ならではの作品だけに、店に来て手にとっていただければ、と思っている。