Tuesday, November 4, 2008

時空を越えたおいしさ

Rimg0759 早朝、果てしもなく広がるニューメキシコの荒野から、坂だらけの街サンフランシスコに着いた僕らを迎えたのは濃い霧だった。ボンヤリした頭の中でトニー・ベネットの「霧のサンフランシスコ」が響いていた。特に好きな曲でもないのに。きっと、アメリカに来ていっこうに収まらない時差ぼけのせいだ。それでも、中華街のゲート近くのホテルでチェックインを済ますと、疲れたといってベッドで仮眠を取る奥さんを残し、一人で街へ出てしまった。じっとしていられない性分は、どこにいても変わらない。友人から教わった中華料理店へでも行ってみようと思う。果たして腹が減っているのかどうか判然とはしないのだが、朝がゆなら大丈夫かもしれない。まだ閑散とした中華街を北へ抜け、ブロードウェイを左に曲がると、その食堂があった。入り口向かって右はオープンキッチンになっていて、さかんに湯気が立ち登っている。9時前だというのに、店内はけっこうな数の人である。メニューにざっと目を通し、10種類くらいはあるかゆの中からダック入りを注文する。回りを見渡すと、半分以上の人が、やはりかゆを食べている。それと一緒に、ヌルッとした白い衣を巻き付けたバゲットのようなものを食べている人もいるようだ。「何なんだろう?」、と興味はあるが、いかんせん一人。見たところかゆはボウルすり切れ一杯もありそうだ。ちゃんと食べおおせるかさえおぼつかない。待つことものの5分くらい、かゆがテーブルに届いた。一口目を口にした瞬間、やはり、無理しても奥さんを連れてくるべきだったと思った。これは、まるで”時空を越えたおいしさ”だ!なんだか疲れが一挙に吹っ飛ぶようである。八角の香りただようダックの肉片もタップリで、時々混ざるピーナッツの香ばしさもうれしい。気がつくと、大半を食べ終えている。額がうっすらと汗ばみ、体がホカホカとしている。結局、滞在4日間の間に、都合3回も通ってしまった。もちろん、謎の物体にも挑戦。揚げパンを薄い米片で包んだものを、酢醤油で食するというもので、テイクアウトでも人気らしかった。店を出ると、霧は消えて、ストリートの遠く向こうにベイ・ブリッジが蜃気楼のように見えていた。