Saturday, February 7, 2009

イノウエ・コウヤ

Rimg0018 井上荒野は作家、井上光晴の娘さんである。ずいぶん前に観たドキュメント映画『全身小説家』で井上光晴という人の見事な嘘つき人生ぶりに感心してしまったことがある。彼の小説はちゃんと読んではいないが(というか映画で満腹だった)、娘さんの小説なら読んでみたいと思った。なにせタイトルが『ひどい感じ 父・井上光晴』なのである。あの父にしてこの娘かも、という勝手な期待感もあった。丸善に行き、イノウエ・コウヤの在庫を検索して欲しいとカウンターの女性に伝えた。あいにく探していた本はなかったが、単行本3種、文庫本なら各出版社から数冊あるという。目指していたものがないのなら、いっそ文庫本にしようと思い案内されるままそのコーナーへ行った。結局3冊があったのだが、迷うことなく「しかたのない水」というのにした。タイトルに惹かれた。表紙を見ると、漢字名の下に、アルファベットでINOUE ARENOとある。カウンターではっきりと「イノウエ・コウヤ」といった時の女性の反応が、いまひとつはかばかしくなかった理由が判明した。コウヤじゃなくてアレノとは、まったく日本語というやつは妙にトリッキーだ。内容はスポーツクラブを舞台に「現代の不毛さ(なんか昔っぽい言い方ですが)」を描いたオムニバス小説で、なかなか面白い。というか、同じようなクラブ仲間として身につまされるわけです。実際、スポーツクラブとは魔か不思議な場所なのだ。