Thursday, November 18, 2010

アヌシーの教訓

Img 2366 リヨンからバスで2時間、黄色く色付いた谷間をぬってアヌシーへ向かった。スイス国境にほど近く、湖のほとりに別荘やオーベルジュが点在した風光明媚なところらしい。車中、「湯布院みたいなところだったりして」などといいながら、くねくね道に弱いウチの奥さんはいつものように寝る体制に入った。
 「フランスのヴェニス」などと呼ばれる旧市街を水路沿いに歩くと、目の前に、雄大なアルプスを背景にした湖の息をのむような景色が現れる。泳ぐ水鳥の脚先に、ゴミひとつない水底までがくっきりと透けて見えるほどの透明な水。「夏なら、すぐにでも飛び込むのに」とは、目を覚ました人らしい言葉。
 小型の遊覧船に乗って、1時間の湖水巡りをする気になったのには小さな目的があった。ずいぶん前に観たエリック・ロメールの映画『クレールの膝』の舞台となった湖面を、一度でいいからボートで走ってみたかったのだ。対岸に目をこらし、映画に出てきた石灰岩の山を眺めながら夢中になってi phoneで動画を撮った。名手ネストール・アルメンドロスが撮影した湖面には、いまも変わらぬ光がキラキラと輝いている。映画の中で、突然の雨を避けるためにボートを船着き場に止め、主人公がクレールの膝に不器用に手を置くシーンを思い出すと、今でもハラハラしてしまう。長年、付かず離れずだった恋人との結婚をいったんは決意しながら、10代のクレールに、それも”薄い皮膜にかろうじて包まれ、肉体の温もりが消えかけた「膝」”に恋した中年男。そんな、まことに「やるせない」映画が、いったい自分にとって”教訓話”として成り立っていたのか、はなはだ疑問だ。欲望から解き放たれることは、とてもむずかしいことだろう。