Sunday, September 21, 2008

椎名其二の評伝「パリに死す」

Rimg0233 椎名其二の評伝「パリに死す」(蜷川謙著)を読んでみた。時代がかったタイトルが示すように、明治、大正、昭和をリベラリストとして生きた足跡はまるでいにしえのロード・ムービーのようだ。1908年、初めてアメリカに渡った彼は、ソローの「森の生活」に心を動かされ、実際に荒れ地で農業をやったりしている。そういえば、ショーン・ペンの新しい映画「Into The Wild」もソロー的な世界を描いているらしい。ソローといえば、大学の教材として読まされ、勝手に「世捨て人」みたいなイメージを持っていた。乱暴に言えば、元祖ヒッピーみたいな人なのだろう。一時もてはやされた「ロハス」なんてのも、ソローの影響なのかもしれない。「虚飾を捨てた小さな暮らし」を求める思想は今こそ有効なのか。しかし、実際の椎名は農業に挫折し、ロマン・ロランへの憧れもありフランスへ渡っている。第一次世界大戦や、ロシア革命が起こった頃で、大正デモクラシーの日本では白樺派の活動が起こっている。白樺派といえば、武者小路実篤の暖簾が実家の台所にかかっていたくらいの認識しかないが、実は柳宗悦もメンバーだったということに最近気がついたばかり。それはさておき、椎名はその後パリでの生活を経て、一時帰国するが再来仏、第二次大戦中は敵性国人として収容所暮らしを経験するもレジスタンス活動で対ナチス運動に関わる。その後、貧しい中でもアナキストとしての自説を曲げず、1962年、75才パリで客死している。とまあ、そこかしこに興味が尽きない内容がいっぱい。それにしても、このところ刺激的な先人達の足跡がやけに気になっている。そこには、与えられた持ち時間いっぱいを使って、今につながっている問題を捨て身で提起した人々が確実に存在しているからだ。