Sunday, May 5, 2013

シャングリラだったのかも。

バンダラナイケ空港から車に揺られて4時間、スリランカ中部の乾燥地帯にあるカンダラマ・ホテルに到着したのは早朝7時。だというのに、この暑さ! 目の前には湖、そして遠くにシーギリヤ・ロックの特徴的なシルエットがかすかに望めるが、それ以外はひたすらうっそうとした緑。視界に人工物がはいってこない。そこは、旅の果てにぴったりなところだった。ジェフリー・バワがここを手がけたのは1994年、75歳の頃。ビーチサイドのホテル設計が多いなか、元YODEL編集長としては、写真で見ただけで気に入り、こんな奥地までやって来たのだが、その甲斐があったというものだ。
 ホテルの外壁は、ほぼ蔦に覆われていて、コンクリートがほとんど見えない。果たしてバワは設計当初からこんな将来を予測していたのだろうか。答えはイエスだろう。「自然」と「オブジェ」が対立するのではなく、それなりに仲良くなるには時間が必要。もちろん時間だけじゃない。彼は、最初から建物に付加するものを少なくしている。そして、その構造物はランドスケープを生かして立地されている。結果として、雄弁な自然が朴訥なオブジェを愛撫しながら変化する様子が見て取れるのだ。
 ここは高級ホテルにありがちなラグジュアリー感とは無縁。細長い建物にはそれなりの部屋数もあるのだが、案内板やサイン類が控えめで(あってもセンスが良く)、万事がうるさくない。スタッフの対応も、過剰な作り笑顔がなく、とても落ち着いて4日間滞在できた。午前中は村上春樹の新刊を読みながら、窓からポッカリ浮かんだ雲の様子を観察して過ごす。午後はスリーウィーラーと呼ばれる三輪タクシーで町まで出たり、あたりに点在する仏教遺跡を少し見学。そうそう、ホテルから遠望したシーギリア・ロックにも登った。巨大な岩の頂上から見るオレンジ色の太陽と真緑の大地。この時間は風も涼しい。ここは確かにシャングリラだったのかもしれない、と思った。