Wednesday, May 8, 2013

やし酒飲み達。

 これは、行って初めて知ったことだけれど、スリランカは社会主義国家で、なぜだか日本への関心が強い。植民地支配からの独立に際して、社会主義体制を採った国は少なくなく、国民は等しく教育や医療を無料で受ける権利がある。ただし弊害もあるようだ。たとえば、街なかや道路にやたらと警官の姿が目に付いたのだが、コロンボへ戻る途中で僕らの車も止められてしまった。ドライバーのワジラさんが「なんだろう、そんなにスピード出してないのに」と言いながら車を降りていったと思ったらすぐに戻ってきた。「大丈夫だった?」と聞くと、「5キロオーヴァーだって。ワイロ、1000ルピーね」とケロッとしている。
 そのワジラさんは、日本に居た間に「演歌」と「締めのラーメン」が好きになったし、田舎町の食堂で「私は日本で働いていた」という人に3回ほど声をかけられた。日本へ「出稼ぎ」に行く人が多いのだ。みんな笑顔で話すところからすると、あまり嫌な目には合わなかったのだろう。でも、ちょっと行き過ぎの方もいた。それは、ワジラさんに「興味ありますか?」と聞かれ、「もちろん」と答え、やし酒屋(?)へ連れて行ってもらった時だった。場所は、とある田舎町のメインストリートから奥まった路地を入った森の中。そこには30人くらいの男たちが座っていて、足を踏み入れると60個の目が一斉に僕のほうを向いた。そこは、異邦人が寄り付かない「闇の」やし酒販売所だったのだ。
 

トーマス・チュツオーラという人が書いた『やし酒飲み』というアフリカの不思議な小説など読まなければ良かったと後悔したが、もう遅い。平静を装い、大きなカメから、表面がザラザラに使い込まれた紫色のプラスティックの手桶いっぱいに注がれたやし酒に口をつけた。酸っぱいカルピスのような味がする。「この人達は一日中ここで飲んでます」とワジラさん。さもありなん、と思った途端、僕の横にピタンとくっつく人がいる。明らかに出来上がっているのが目でわかる。そして、よく聞き取れない英語を繰り返しながら小さな紙とボールペンを差し出す。海外では最近漢字ブームなのを思い出し、とっさに僕の名前を書いて渡したが反応が悪い。どうやら電話番号が知りたいらしい。悪い人ではなさそうだが、教えても意味が無い。ワジラさんも場の雰囲気を察して「早く飲んで、行きましょう」という。グビグビ流し込んで、その場を去った。そうそう、発酵系が好きな奥さんのために買った大きなボトル一杯のやし酒を忘れてはならない。なにせ、女人禁制と聞き、車でひとり待っているのだから。