Monday, August 15, 2011

おとといポップス <わくらば編>

仲宗根美樹2 実は、初めて買ったドーナツ盤は洋楽ではない。1959年、当時民謡歌手の枠を越えてブレイク中だった三橋三智也の『古城』というレッキとした邦楽である。佐賀の駅前にあったレコード屋で母をくどいて買ってもらったから覚えている。ラジオで聴いた哀愁のハイトーン・ボイスにノックアウトされてしまったのだが、文語調の歌詞はチンプンカンプン。「栄華の夢を 胸に追い」くらいは「映画の夢を 胸匂い」と勝手に解釈できたが、「わくらば」となるとまるで判じ物みたいで完全にお手上げだった。三橋三智也ではもう一つ『怪傑ハリマオの唄』も忘れられない。白黒テレビがようやく一般家庭に普及し始めたころのテレビ主題歌なのだが、番組の内容はかなり荒唐無稽。義賊とおぼしき主人公が東南アジアを舞台に、ピストル片手に馬にまたがり、悪漢共を懲らしめるという内容で、今思えば太平洋戦争における日本の立場を正当化しかねない危うさを含んでいるのだが、そんなことは当時思ってもいない。ただターバンを巻き、サングラスをかけたヒーローが、月光仮面よりもクールでエキゾチックに見えたのだ。ソフトボールなどに時間を忘れ、フト気がつくとあたりはすっかり夕まぐれ。暗くなった田舎道をトボトボ友達とふたり家路を急ぐとき、勇気を出すために「真紅な太陽燃えているー」と大声で歌いながら歩いたものだった。「わくらば」は漢字では「病葉」と書くが、「朽ち葉」ほどの意味だろう。やはり当時ヒットしていた沖縄出身の仲宗根美樹の『川は流れる』という曲は、この言葉から始まる。ラ行の発音が巻き舌の、ハスキーな声で世の無常を唄われるとゾクゾクした。いま聴いたらどうだろうかとYouTubeにアクセスしてみたら、まごうかたなき名曲だった。しかも、アレンジはクロンチョン風ではないか。このインドネシアのトラッドなリズムは、戦争中『ブンガワン・ソロ』という曲としても有名だった元祖エキゾチック歌謡なのだ。洋楽、邦楽の区別にさほど意味などはない。それよりも、「良い唄は悲しい唄である」という時のマレーの感受性が好きだ。