Friday, March 7, 2014

ノー・プロブレム。

シシリアのパレルモからバスに揺られて2時間、アグリジェントへたどり着いた。そこからバスを乗り換えて、急峻な坂を下ったところに「神殿の丘」がある。2月中旬とはいえ、温暖な地中海気候なので早くも白い花がまっさかり。桜かと思ったがどうやらアーモンドらしい。他にもさまざまな花が咲き乱れ、あたりは得も言われぬ芳香に満ちている。このパラダイスみたいな丘に、紀元前からのギリシャやローマの神殿群が点在しているのだ。イオニア式の石柱は、往時の姿をなんとかとどめているものもあるが、そこら中に散乱しているものが多い。そんな倒れた石柱の上に登ってみた。すると南のゆるやかな斜面の果てに海が見える。それもそのはず、さほど遠からぬ先はアフリカ大陸の北端チュニジアの岬。ギリシャやローマと戦ったカルタゴの地である。
 カルタゴとは、太古から北西アフリカに住むベルベル人が作り上げた強力な国家とある。後にイスラム化し、シェークスピアの『オセロ』ではムーア人として登場する、航海術に富み、褐色の肌をした民族である。なかでも紀元前の将軍ハンニバルは、象を先頭に大群を率い、スペインからピレネーを越え、ガリアを征服し、その後なんとアルプスを越えて今のイタリアに侵攻、ローマを脅かすほどの戦術家だったらしい。「ハンニバルがやってくるぞ!」といえば、子供は悪戯をやめるといわれるほど、ヨーロッパを脅かした人物。反面、多岐にわたって影響を与えたことを想像することが出来る。いまさらだけど、地中海をヨーロッパ世界中心にしか考えてこなかった自分を思い知らされる。
 パレルモへの帰りに乗ったバスは、僕ら以外にはアフリカ系のノッポとチビの男性がふたり。座席についてもひっきりなしにおしゃべりをしている。そのうちにノッポさんが携帯でしゃべりだした。言葉は何語なのか、まるでパトワのように飄々として聞こえるので面白いがまるでチンプンカンプン。ひとつだけ聞き取れたのは「ノープロブレム」という英語。多分トータルでは30分はしゃべり続ける間に、4、5回は使っていたから、少し込み入った話だったにちがいない。さまざまな民族が横断し、おそらくプロブレムだらけだった地中海でこそ、あえて他者に対して必要な言葉なのだ。