Tuesday, November 19, 2013

スイス?ドイツ?

    
 スイスは、れっきとした国家のわりには国語を持っていない。これは近代国家=国民国家としては、ちょっと異例だろう。”同じ民族が歴史と文化と国土を共有する"のが「国民国家」といわれ、なによりもそこに住む全員の意識の平準化が望まれている。そのためのツールとして自国語が確立しないと、教育や文学などを通しての「アイデンティティ刷り込み」がむずかしいのだ。しかし、いったい固有の言語を持たずに、堅固な国防とナショナリズムをキープできるのだろうか?
 スイスが神聖ローマ帝国から独立したのは1648年。歴史上、共和国の独立としては一番古い。なにしろフランス革命の100年以上前の話なのである。宗教革命の嵐も追い風となり、小国だらけで戦争に明け暮れていたヨーロッパの封建体制からいち早く抜けだそうとしたのだ。そのためにはゲルマン系、ケルト系、ラテン民族などの複雑なミックス群の差別をさておき、まずハプスブルク家の支配からの「自治」をかかげて、3つの州が同盟を結ぶことが大事だったに違いない。そのせいか、今でもスイスは、狭い国土に26のカントンと呼ばれる州が存在し、ドイツ語圏、フランス語圏、イタリア語圏、そしてロマンシュ語圏と、カントンごとの言語が偏在している。自治権は強く、消費税率なども州によって違っている。
 バーゼルはスイス北西部、ドイツとフランスと国境を接する商業都市だ。基本的には、街の真ん中を流れるライン川がドイツとの国境線なのだが、川を超えて、ドイツ側にはみ出す格好で少しだけスイス領が存在しているからややこしい。僕らが2泊したゲストハウスはそのライン川を渡った側にあった。夜遅くレンタカーでナヴィを頼りに辿り着き、シャキシャキしたマダムから部屋へ案内され、ホテルとは違う決め事について流暢な英語でひと通り説明を受けた。その時である。不意に僕は今自分がいる場所を俄然確認したくなってしまった。バーゼルにいるのだから当然と思い「ここはスイスですよね?」と尋ねるとそれまでニコニコしていた彼女は毅然となって、「ドイツです」と答えた。