Thursday, November 7, 2013

ゾフィー・トイバー=アルプ。

 
スイスの通貨は、EUに加盟していないので当然だけど、ユーロではなく自国のスイス・フラン。これが、ちょっと斬新なのだ。2000年に発行された紙幣は、日本や アメリカのように一般的な横使いではなく、表も裏も縦使いの構図をとっている。これは、世界中でいまのところスイスだけらしい。さすが、デザイン立国。さらに、6種類の紙幣に登場するメンツが興味深い。よくありがちな「立志伝中の偉人」ではなく、カルチャーやアート、デザイン寄りの人選で、野暮な政治家などはナシ。おなじみなのは、やはり10フラン札のル・コルビュジェか。そして100フラン札はアルベルト・ジャコメッティ。そのほかは哲学者、作曲家、 小説家で、いずれもタダモノではない気配。そんな中に、ただ一人女性がいる。ゾフィー・トイバー=アルプ。あのハンス・アルプの奥さんだった人である。  
 ハンス・アルプは「チューリッヒ・ダダ」の中核メンバーのひとりで、不定形でオーガニックな彫刻や絵は、たぶん何処かで目にした人も多いはず。第一次大戦という未曽有の状況下で、挑戦的な芸術闘争としてのダダイズムをトリスタン・ツァラらと始めたが、その後シュールリアリストとも交流を持ち、生涯に渡って独自の立ち位置を選んだアーティスト。元来は「詩」が得意なのだが、彫刻家のゾフィーと出会い結婚、二人で創作活動をするうちに彫刻へとシフトしていったようだ。アメーバみたいな形をした独特の彫刻作品は、そんなゾフィーとの良きパートナーシップの現れといえるのかもしれない。
 そんなゾフィーの作品の一端が、つい最近までパリのパレロワイヤルにある国立セーブル陶磁器製作所のギャラリーで展示中だったことを知った。初めて写真で見る彼女の家具は、二人が使うためにデザインされた1点もののシンプルな箱状の棚で、今回限定復刻されたものだ。ひとつでも、また積み重ねても使えるミニマルでモダンなかたちは、とても90年前にデザインされたものとは思えない。バウハウスから派生し、その後のプルーヴェ&ペリアン、ドナルド・ジャッドなどに連なってゆく、稀有な作家性みたいなものを、勝手に感じてしまう。
 写真は右端がゾフィー・トイバー=アルプ(左端にル・コルビュジェ、真ん中は作曲家アンテュール・オネゲル)で、帽子をかぶった思慮深そうな晩年の顔とは別に、若いころの写真を見ることができる。小さいのでわかりづらいだろうが、ボーイッシュで、はにかんだような表情がとても素敵なのだ。