Sunday, September 4, 2011

おとといポップス#6 ”やわらかな紫煙に包まれながら”

32607 小坂忠のライブは、それ以前に一度だけ、たしか法政大学の学園祭で見たことがあった。タイトな演奏をバックにして『機関車』を唄う姿に、アメリカの内省的なSS&Wの姿がダブって見えた。駒沢結城のペダル・スティールが効果的で、いわゆる「日本のフォーク」とは違うスタイルにショックを受けた。サポートは他にドラムスの林立夫、ベース後藤次利、キーボードは松任谷正隆という4人のユニット、「フォージョーハーフ」。タンガリーのシャツにカウボーイ・ブーツを履いた小坂忠がジェイムズ・テイラーだとすると、彼らはさしずめザ・セクションといったところか。「四畳半」を意味するバンド・ネームには、当時の日本のニューミュージック・ブームに対する皮肉も感じられた。どこか「はっぴいえんど」に連なる東京、山の手の音だと思った。だから、バックをやらないかという話にも困ってしまった。 アメリカ西海岸を思わせる都会的な音に対して、ぼくらは南部の田舎っぽい音を指向していたし、やってはみたいけれど明らかに荷が重いな、と感じていた。そんな時、一度会って話をしたいので来て欲しいということになり、狭山に住む彼の家におじゃました。1974年当時、福生や狭山にはまだ在日米軍のハウスが点在していてミュージシャンやアーテイストが住んでいるちょっとしたコミューンだった。「ムーヴィン」の和田博巳さんもその一人で、以前一度遊びに伺い、すぐ近所にある細野さんの自宅で「HOSONO HOUSE」のレコーディング風景を覗かせてもらったことがあり、なにか独特の地場を感じさせる場所だった。ドアを開けると、そこは照明を落としたフローリングのリビングで、古い革の椅子に座った忠さんがぼくらを出迎えてくれた。そして、コーヒーを飲みながら少し話をした。たしか彼は「これからはちょっと重い音をやりたい」みたいなことを言った記憶がある。そしてレイ・チャールズやブルース系のレコードを色々かけてくれた。そのなかでジョシュ・ホワイトというブルーズマンが気に入った。泥臭すぎず、洒落た感覚で、どちらかというとブルースが苦手だったぼくにもスンナリ聴ける音だった。やわらかな紫煙に包まれながら、ぼくらは彼と一緒にやってみる気になっていた。