Sunday, May 4, 2008

人が関われるすき間

5日間に及ぶデザインニング展を通じ、印象に残ったのはgraf、服部氏の言葉でした。それは、最終日にもうけたトーク・セッションの際、彼が発言した「すき間があるデザイン」という言葉に集約されるのかもしれません。セッションはgrafがデザインしたKGアンプの心地よい音が流れる中、満員のゲストと一緒にリラックスした雰囲気で始まりました。I-Podからのデジタル・データが真空管アンプを経過することで、とても自然な音となってゆきます。それは、デジタルといういわば点のようなものが集積し真空管を通る間に、波のようなものに変化するためだと彼は言います。たしかに、寄せては返す音と音の間には、つい引き込まれてしまいそうに魅力的な間が感じられます。

Enough 13

そういえば、grafの家具にも、それと共通するデザイン性があるような気がします。合理性を備えた完成形というより、買った人が「どう使うか」といったすき間、もしくはスキを残したデザインとでもいえるようなもの。人が関わって初めて機能し出すようにセッティングされたオブジェ。

今回のイヴェントで提案した「靴のままの生活」なるものも、実はそんな試みのひとつだったような気がします。あらかじめ、靴を脱ぐことが合理的だとして規定された空間は、ともすれば息苦しいものです。訪れる人が何らかの形で関われるスキとしての土足。拒否しないこと。問いかけること。出来れば、お互い成長すること。
Enough 11
今回手がけたフラットも、あえてラギッドにとどめた部分が端々にあります。
訪れた人たちがこの空間で、「○○でなければならない」よりも、「○○もありかもね」という楽しみ方を感じてもらうことが、できたかどうか。
そして今後それを「どう使うか」ということを想像させるような空間であったかどうか、ということも。
まだまだENOUGHの試みはつづきます。

Enough 12
イヴェントの二日目、土足仕様に改装したばかりのフラットに友人達を招いて小宴を開きました。そのうち、多分酔いも手伝ってか、ある友人が赤ワインを床にこぼしてしまいました。おかげで真新しい麻のカーペットには30センチ位のシミが。怒るに怒れない僕を尻目に、その友人はシミのすぐ横で朝までぐっすり眠り込んでしまいました。翌日うちの奥さんが「染み抜きには重曹が良い」と調べてゴシゴシやるけど赤暗色が薄黒く変化するだけ。おかげで、僕ら夫婦と友人は、お互いに忘れることの出来ない物語を共有することになったというわけです。