Sunday, November 18, 2007

パリ、メルド

Rimg3761-1 「買付の旅」と聞くと、「うらやましい」とおっしゃる人が多い。確かに好きなものを探して外国の街を歩き回るのは、楽しい。でも、商売であるからには、それなりの苦労もある。さしずめ、買い付けた商品を狭いホテルの部屋で夜遅くまでかかって梱包して、出来るだけ早く日本へ送り出す作業などはその典型だろう。よほどの大物でない限り、郵便で送ることが多いのだが、送料がバカにならない。特に、ヨーロッパや北欧はかなり高い。おまけにサイズや重さの制限もあり(しかも各国で規定が違う)、リミットぎりぎりに経済的な梱包するのはなかなか骨の折れる作業である。いきおい、郵便局とのちょっとしたトラブルも多くなる。そんな中、忘れられない出来事が、今年の春、パリで起こってしまった。
 
 その郵便局はホテルから歩いても10分はかからない距離だった。とはいえ、一番重いもので20kgくらいはある、計五個の段ボール箱を運ぶためにはタクシーを呼ぶしかない。フロントに頼んだのだが、40分経ってもやってこない。そのうちにようやく来たのだが、あいにく全部の荷物は入らない。再度、大きめのワンボックス・カーを呼んでもらい、待つこと30分。業を煮やして、10分ほどのところにある大きめのホテルの前に客待ちしているタクシーを歩いて呼びに行く。そうやって、なんとか目指す郵便局に到着。中にはいると、パリの郵便局ではおなじみ、待ちの列がズラリと並んでいる。20分くらいはかかりそうだ。そのうちに、ようやく自分たちの番が来た。係の男がカウンターから出てきて、荷物をメジャーで測り始める。「大丈夫、ちゃんと測ってきたから」と冷静を装うが、前にも重量オーバーで、その場でアレンジし直した経験がある。油断は禁物だ。と、係の男は一番大きな段ボールをさして、フランス語でなにやらネガティヴな言葉を発している。どうも、5cmほど高さがオーバーしていると言いたいらしい。やれやれ。この男は大型を経済的に送る別のオプションがあるのを知らないのだろうか。その場合ははかり方が違うのである。英語でそのことを繰り返し伝えるが、がんとして聞こうとはしない。「ジャメ、ジャメ」の繰り返しである。困り果て、「前回、リパブリックの近くの郵便局ではOKだった」と言うと、彼はこう答えた。「その郵便局に持って行け」、と。一瞬耳を疑った。局ごとに規定が違うはずはない。それを平然と、違う局に行け、とはさすがフランスの公務員、個性的すぎる。こうなっては、僕としてもとっておきのフランス語を使わざるを得ない。映画では何度も耳にしたことがあるが、現実に使う機会があるとは思ってもみなかった。「メルド!」。ここ一番という時の僕の声は、とても大きい。後ろに並んでいたおばさんが僕に向かってこういった。「あんた、自分の国に帰ったら」。

 以前、小柳帝氏からも勧められていた『パリ、ジュテーム』をDVDで観た。オムニバス映画で、なんと総勢18名の監督が各々パリに関する5分間の短編を作るというもの。こういう趣向は、いわばフランス映画の得意技。昔から何本か観たことはあるが、どれもあまり記憶にない(トリュフォーやゴダール、ロメールなど、好きな監督だったはずなのだが)。短編でオムニバスという手法が僕は不得手なのかもしれない、と思っていたけど、とても楽しく観ることが出来た。18名といっても、フランス人監督はたしか2,3人だったと思う。コーエン兄弟や、ガス・ヴァン・サントなどアメリカ勢を含めて各国のシネ・フィルがそれぞれに個性的なパリを切り取っている。それは、たった今パリの片隅で実際に起こっているかもしれない小さな出来事ばかり。イスラム系、アフリカ系、アジア系など多人種、多文化の中での普段の生活には、ロマンと苦さがいつも同居している。つまり、「パリ、メルド」でもあるってことなんだろう。