Friday, August 2, 2019

ルート・ブリュックのテキスタイル

ヘルシンキ郊外にある現代美術館EMMAで、幸運にも"Bryk & Wirkkala: Visible Storage"と題された展示を観ることができました。
3年ほど前だったか、ルート・ブリュックの大規模な展覧会で、その独特な世界に魅了された身として、今回タピオ・ヴィルカラと初の夫婦揃っての展示企画とあっては興奮しないわけがありません。おまけに、その展示方法がちょっと意表をついたものだったからなおさらです。
それは、まるで美術館の奥にある収蔵庫に潜入したかのような展示方法とでも言えばいいのでしょうか。棚や仕切り壁には、おなじみの作品に混じってプロトタイプや未発表作品がギッシリ、無造作に並べられているという趣向。そればかりか、スチール製の引き出しに保管されたスケッチや製作過程のメモなども自由に見れるのにはビックリ。広い空間にひとつひとつ間隔をあけて照明を当てた美術館演出を拒否した、タイトルどおりのVisible Storageで、二人の巨匠の生々しい製作スタイルがかいま見えるというわけです。さすが、フィンランド、あまのじゃく。
うれしい発見だったのがブリュックが手がけたマルチカラーのテキスタイル。それらは1968年に夫婦で初めてインドのアーメダバードを旅行をした際に受けた色彩の豊かさにインスパイアされたもの。余談ですが、ふたりがインドに興味をもったのは、他でもないイームズとジラルドが1954年にインドに赴き収集したファブリックなどで構成した展覧会を、ニューヨークのMOMAで目にしたことが契機となったらしい。ワオ!意外なところで繋がる「フォークアートの環」なのです。付け加えると、ふたりはコルビュジェの建築群も目にしています。タピオ・ヴィルカラはたくさんの写真を撮影、イタリアのDOMUSにも掲載されたとのこと。
余談ついでにもうひとつ。1968年といえば、ビートルズが初めてインドを訪れた年。意外かもしれませんが、ルート・ブリュックとタピオ・ヴィルカラはビートルズのレコードを愛聴していたのです。ふたりは当時共に50代なかば。いいですねえ。なんとそれもBraunの最新ステレオ・システムで。しかもそれはデザイナー自身から贈られたものとのこと。ということは、ディーター・ラムスとも親交があったってこと?またもやワオ!なのですが、肝心なことは一見ストイックなクリエイター然としたふたりだと勝手に決めつけていたら、あにはからんや、当時のアメリカやイギリスのヒップなカルチャーに充分コンシャスだったということ。世界は一色ではなく、マルチカラーだったこと。特にインドはサフラン色。ルート・ブリュックの後半生への転換点としてピッタリの場所だったのでしょう。