Wednesday, August 21, 2013

さいたさいたチューリップのアナが…

    
 フィンランドの田舎道をレンタカーで走っていると、一瞬ポートランドの続きのような気がしてくる。つい一ヶ月前の出来事だからということもあるが、緑豊かな自然の中を対向車もなく、風景と一体となって走り続けていると、ついそんな錯覚に陥りそうになるのだ。でも、いったんフリーウェイに乗ると、事情は一変する。一直線の広い道を様々な車が100kmを超えるスピードですっ飛ばし、ひたすら目的地へ向かうだけの世界へ突入してしまう。時々、ガスステーションとサービスエリア、そしてショッピングモールがあらわれる。このシステムを世界中に広めたのはアメリカなのだろう。いや、最初のアイデアはアウトバーンだった。 国民がフォルクスワーゲンに乗って好きなところへ行けるというヒトラー総督のアイデアだったはず。ドイツ帝国が夢想し、アメリカ帝国が実現したものは、それ以外にもたくさんある。最悪なのは、原子爆弾。ナチスから逃れたユダヤ人科学者達が原爆開発を成し遂げ、日本が最初(で今のところ最後)の被爆国となった。なのに、なぜかそのアメリカの文化に憧れ続ける自分がいる。これは、ずいぶん居心地が悪いことである。
 フィスカス村で泊まったB&Bの女主人は、年のころ50歳くらい。庭の喫煙できるテラスでタバコをプカプカ吸いながら、「わたし日本のうた歌えるわよ。さいたさいたチューリップのアナが…」とぼくらを歓待してくれた。次の日だったか、彼女と若いボーイフレンドが表紙を飾るコミュニティ新聞をロビーで見つけた。どうやら彼女はこの辺りでは有名人らしい。ところで、彼女の足は車ではなくハーレーダビッドソンだ。そういえば、田舎道をドライブ中、 ハーレーに乗ったヘルス・エンジェルス風の人達をかなり見かけたっけ。この国にも、アメリカ文化に影響を受けて屈折してしまった人達がいることは、アキ・ カウリスマキの映画でもおなじみだ。ただし、「世界の警察」を標ぼうする、独善的国家としてのアメリカに批判的なのは言うまでもない。救いは、そんな政府のやり方に対して、色んな分野から「それは間違ったやり方だ」という自分なりの意見をいう普通の人々がアメリカには存在していること。これだけは日本がまだまだ真似しきれていない点だろう。写真は途中で立ち寄ったカフェ。まるでセルジュ・ゲンズブールの映画『ジュテーム』に登場する架空のアメリカン・ダイナーのようだ。