Saturday, October 3, 2009

久生十蘭の「従軍日記」

Rimg0040-3 久生十蘭の「従軍日記」を読んでみた。戦意高揚の記事を書く人気作家としての彼は、インドネシアで酒と麻雀と慰安婦に溺れる苦渋の日々を送り、ニューギニアの前線ではアメリカ軍の爆撃の恐怖を味わうという経験をすることになる。アブナイ言葉をフランス語に代えながらつづられる細かな日々の記録は、そのまま当時の知識人の有り様を見るようだ。太平洋の広大な地域に展開した日本の不毛な戦争に、彼自身は案外コミットしていたことをうかがい知ることができる。
 20年ほど前、バリ島の隣のロンボクという島へ行ったことがある。ある朝、ホテルの前のビーチから「ギリ・アイル」と呼ばれる、さらに小さな島へカヌーで渡ってみることにした。1時間ほど波間を揺られ、ようやく視界に入ったその島の隣にちっぽけな岩だらけの小島があった。船頭が、頂上の黒い物体を指さしながら、旧日本軍の砲台だと教えてくれた。戦略的にはさして重要とも思われない孤島にポツンと置き忘れられた大砲。目の覚めるような青空をバックにした、この天国のような小島に配属させられた兵隊は、毎日一体何を考えて過ごしたのだろう、と不思議な気持ちになったことを覚えている。
 僕は、いわゆるジュウラニアンではなく多くの作品を読んだわけでもない。本の表紙に写る写真が、幼い頃見た父の軍装姿とほぼ同じポーズ、表情だったことに興味を惹かれたのだろう。長靴を履き、軍刀を杖のようにして虚空を見つめるポートレイトは、さながら当時の日本男児のアイコンのようだ。