20年ほど前、バリ島の隣のロンボクという島へ行ったことがある。ある朝、ホテルの前のビーチから「ギリ・アイル」と呼ばれる、さらに小さな島へカヌーで渡ってみることにした。1時間ほど波間を揺られ、ようやく視界に入ったその島の隣にちっぽけな岩だらけの小島があった。船頭が、頂上の黒い物体を指さしながら、旧日本軍の砲台だと教えてくれた。戦略的にはさして重要とも思われない孤島にポツンと置き忘れられた大砲。目の覚めるような青空をバックにした、この天国のような小島に配属させられた兵隊は、毎日一体何を考えて過ごしたのだろう、と不思議な気持ちになったことを覚えている。
僕は、いわゆるジュウラニアンではなく多くの作品を読んだわけでもない。本の表紙に写る写真が、幼い頃見た父の軍装姿とほぼ同じポーズ、表情だったことに興味を惹かれたのだろう。長靴を履き、軍刀を杖のようにして虚空を見つめるポートレイトは、さながら当時の日本男児のアイコンのようだ。