Friday, October 17, 2008

シャンソンにはハミングがよく似合う

Rimg0077 クレール・エルジエールという女性歌手のCDを聴いている。2003年にピエール・バルーのサラヴァ・レーベルからデビューした彼女の最新作である。「パリ、愛の歌〜永遠のシャンソン名曲集」というフツーのタイトルだが、内容がとてもいい。アコーディオン、ピアノ、ギター、コントラバスだけをバックに歌われるおなじみの曲がとても新鮮に響く。エディット・ピアフなどの感情過多な歌唱に比べると、随分あっさりとしているところがミソなのだろう。とは言ってもシャンソンは詩が命。そのほとんどが一筋縄では行かない男と女の世界。ところが、当方まったくフランス語がわからない。勝手にアンニュイだのデカダンだのと想像するばかり。だからなのか、彼女みたいに語りかけるような歌い方のほうが心に響く。このアルバムに収録されている”Parlez-moid’amour(聞かせてよ愛の言葉を)”も、冒頭の”パーレモアー・ダムール〜”だけはいつでも口を突いて出るのだけれど、あとはやっぱり”ラララ〜”、となってしまう。今の季節、シャンゼリゼのマロニエも黄色に色づき、さぞやロマンティックなことだろう。パリがいかに変わろうとも、セーヌの岸辺を歩けば、やっぱり「パリの空の下セーヌは流れる」をハミングしてしまう人がいるに違いない。そう、やっぱりシャンソンにはハミングがよく似合う。ちなみに、プロデュースはこのアルバムでギターを弾いているドミニック・クラヴィクという人で、長年アンリ・サルヴァドールのバックを努めてきた人である。

Sunday, October 12, 2008

長十郎なら文句ナシ

Rimg0063 最近、といってもかれこれ2ヶ月くらいになるだろうか、ウチのすぐとなりのビルの軒先に露天の野菜屋が出現している。穫れたての地野菜や果物が駅前広場の向かいにあるひと坪ほどの場所に並べられ、道行くおばちゃん達が足を止めている。相次ぐ食品偽装もあってか、食の安全が気になるのはなにもおばちゃんに限ったことではないだろう。僕も、犬の散歩の帰りに立ち寄ってなにがしか買い求めることがある。不揃いな形のトマトや、もぎたてのナスを見ると、つい買いたくなるのだが、我が家の冷蔵庫に買い置きがあるのかどうか定かではないから、あきらめることが多い。ところが、果物となると、つい買ってしまう。もし買い置きがあっても、毎朝なにがしかの果物を食べるので構わないのである。酒を飲み過ぎた翌朝、ぼんやりした寝起きの頭に果物の水分と糖分がジワーっとしみ込んでゆくのは悪くないものだ。特に、今の季節は梨がいい。シャクシャクとした歯触りと、甘くたっぷりの果汁には抗しがたいものがある。梨なら何でもいいのだが、長十郎なら文句ナシだ。昔は、二十世紀に比べられると肩身が狭かったこのでっかくて無骨な梨だが、旨いのに当たると「これぞ、日本の梨」という感じでつい食べ過ぎてしまうほどだ。そして、何よりも安い。赤ん坊の頭くらいのが2個で300円である。旨くて、安くて、安全な食い物があるのは、気分がいいものだ。そういえば、昨晩久しぶりにビクトル・エリセの「エル・スール」をDVDで観た。本当は「マルメロの陽光」が観たかったのだが、レンタル店にはなかった。でも、あまりの素晴らしさに、おかげでしばらく寝付けなかった。それにしても、マルメロという果物は、一体どんな味がするのだろうか?見たところ、洋なしのような形をしているのだけれど・・・。

Wednesday, October 8, 2008

帝さんとMIKADO

Rimg0034  今年もROVAの新入生を迎える季節がやってきた。福岡校も早いもので10周年である。10年前といえばちょうどorganを始めた頃、つまりROVAと organはほぼ同い年ということになる。でも、考えてみると、主宰する小柳帝さんとはそれよりもずっと以前に知り合っている。僕がレコード店に勤めていたときに、高校生だった彼がしばしば立ち寄ってくれていたのだ。当時は80年代ニューウェイブまっただ中で、イギリスやヨーロッパから刺激的なインディペンデントのレコードが、それも毎月のように送られてきていた時代だった。仕入れを担当していた僕は、面白そうなレーベルやプロデューサーの名前を手がかりにして、手当たり次第にオーダーをしていたものだ。そんな中に、フランスのMIKADOと言う名前のユニットの7インチ盤があった。ジャポニズムでもあるまいが、とにかく変なフランス人だろう位の気持ちで試しに1枚だけオーダーした。聴いてみると、はかなげな女性ボーカルとエレ・ポップ・サウンドがとても新鮮で、すぐに自分のキープ棚に仕舞い込んでしまっていた。そんなある日、彼がやって来てカウンターにいた僕に言ったのである、「ミカドっていうグループのレコードありますか?」と。内心、とても驚いてしまった。なにせ音楽誌にもまだ載っていない無名の新人の、それも7インチ盤なのである。しかも、それは僕のキープ状態にある。「ごめんなさい、品切れなんです。どこかでお聴きになったんですか?」と尋ねると、彼は続けてこう言った、「イヤー、僕と名前が同じなんで、興味があって・・・」と。今思っても、とても面白い出会いだったと思う。そして、それ以来ずっと音楽や映画、そしてデザインを通じたつきあいを続けさせてもらっている。それは、「帝さんの目下の興味の対象は一体何なんだろう?」という僕の興味がいっこうに尽きないからだ。そして彼は10年ほど前から月に一度、レコードやCD,そして雑誌や資料で一杯になったトートバッグを手に、ROVAの為に東京からやって来るようになった。ROVAの生徒さん達はそんな帝さんを心待ちにしている。それはきっと、フランス語の授業はもちろんだが、彼が肉声で紹介する音楽や映画に対しても興味をそそられるからに違いない。まずは、18日に行われるイヴェント形式の説明会で、ぜひミカド・ワールドの一端に触れて欲しいと思う。

Monday, October 6, 2008

こんなラジオ局があってもいい

41K2749Tp1L-1 SOURCEの杉山さんのブログを見ていたら、面白そうなネット・ラジオが紹介されていた。なんでも、LAはサンタモニカから発信しているパブリックFMらしく、KCRWという。早速ログインしてみると、いかにもアーバンな感じのDJ諸氏の写真とプログラムがズラリ。そのなかでも、一番オルタナ顔をした男のプログラムを開くと、イナラ・ジョージ&ヴァン・ダイク・パークスの名前が。しかも、ライブとある。押っ取り刀でクリックすると、スタジオ・ライブではないか。多分出たばかりの新作からの曲なのだろう。イナラ嬢の素直な唄いっぷりがとても気持ちいい。ピアノを弾くオーヴァーオール姿のヴァン・ダイクは今やまん丸体型。「ソング・サイクル」の頃の彼とは隔世の感があるのは仕方がない。途中のインタヴューでは、早口でジョークを飛ばしていたけど、残念ながら僕の英語力ではほとんど理解できなかった。なんだかすっかり得をした気分で違うDJをクリックすると、聞き覚えがある曲が流れてきた。好きだった80年代のグループなのだけれど・・・。トーキング・ヘッズをイギリス流にポップにした音と、センチメンタルなメロディ・・・、あっ、ブルー・ナイルだ!良かった、思い出せて。ヴォーカルはポ−ル・ブキャナンっていったっけ。たしかグラスゴー出身で、ニューウェイブの末期にデビューして”HATS”というアルバムが評価高かったなー。多分この曲もそのアルバムからだ。しばし、懐かしさと、いま聞く意外な新鮮さに耳を奪われていると、次の曲がかかる。うわ、コクトー・ツインズだ!!やっぱり、エリザベスの声って唯一無二だなー、あとでレコード引っ張り出そう、などと思っていたら、続いて当のデヴィッド・バーンの歌声が。ただし、新曲らしく憶えがない。それにしても、ラジオで興奮したのは久しぶりだ。多分、初めて行ったパリでRadio Novaに出会って以来だろう。プログラムをよく見ると"Sounds Eclectic"とある。Eclecticとは、(学問や芸術上)「取捨選択された、編集された、折衷主義の、多方面にわたる」などの意味を持つ言葉らしい。ちょっとスノッブだけれど、こんなラジオ局があってもいい。

Wednesday, October 1, 2008

ホッピーさえ飲まなかったら

Rimg0166-1 先日の東京出張でビオワインの洗礼を受けてしまった。場所は友人のOさん夫妻と夕飯を食べる約束の「ル・キャバレ」。代々木八幡から歩いて10分ほどの所にある。JR新宿駅で小田急線に乗り換えようとしたとき、このまま電車に乗ると約束より早く着いてしまうことに気付き、どこかで少し時間をつぶそうと西口へ出た。学生時代、青梅街道沿いの中古レコード屋によく通ったなあ、と思いながらも足が自然にガード沿いの方向へ向かい、あっという間に「ションベン横町」の飲み屋街にいた。そういえば、昔たまに来たことがある。バンドの練習を終え、一杯やりつつ音楽談義をするには格好の場所だった。特に金欠の身の上にはありがたかった。今では「思い出横町」などと名を変えた界隈だが、昔通りサラリーマンやおじさん達の天国であることに変わりはない。座って、とりあえずホッピーを頼む。アテは赤貝のひも。なにせ時間があまりない。それにしても、ホッピーというのは何の味もしないのに結構酔ってしまう不思議な飲み物だ。ふと表を見ると、ドアの向こうの雑踏を画家のYABUさんらしき人が通り過ぎたような気がする。まさか、こんな所を歩いているはずはない。ホッピーがもたらす幻覚なのだろうか。早々に店を出て、約束の店へ向かう。この分では少し遅刻だ。ところが、ありがたいことにOさん夫妻は僕らを待っていてくれた。早速ワインにする。まずは、冷えたロゼということになる。ビオらしいシンプルなラベルである。微発砲ですこぶる旨い。鳥レバーのリエットも唸るほど旨い。会話が弾み、ワインも進み、結局4本ほど空けたようだ。こんなに愉快な時を過ごしたのは、本当に久しぶりのこと。あまりの愉快さに、料理のほうは何を食べたかいまひとつ判然としないが、クスクスや、野菜系が多く、どれもビオワインに良く合うあっさり目の味付けがなされていた。それにしても、あの味気ないホッピーさえ飲まなかったら、もう一本は確実に空けていたのに、と思わずにはいられなかった。