一気に登ると高山病の危険があるらしい。さいわい、途中2000mくらいで一旦降りて別のロープーウエーに乗り換えるとのこと。おそらく上はかなりの寒さに違いない。この日のため防寒用にエヴァーウォームの下着を着込んでいるのだが、それにしても、もはや寒い。35度の砂漠から一気に零下の世界へやって来たわけで、身体が順応していない。回りもほとんどの人がそれなりの格好をしている中で、異彩を放っているのがバスでひっきりなしに喋っていた4人の謎の中国人だ。全員ワイシャツに薄いグレーの背広姿でマフラーもなし、という軽装は、傍目にも大丈夫かな、と思ってしまう。そんなことにはお構いなしに、ほとんど垂直かと思われるロープーウエーに乗った僕らは、またたく間に標高3842m、終点のアギーユ・ドゥ・ミィディと呼ばれる展望台に運び上げられた。
それから先のことは筆舌に尽くしがたいほどクールだった。つまり、寒さを通り越した無我の境地だったわけだ。写真を撮ろうにも、強風のせいか足と指先の血流がストップしていることが歴然で、なにごとも思うに任せない。めったやたらにシャッターを切る。そんな中でタバコを一服したら(風か気圧なのか、なかなかライターが付かないのだが)、今まで味わったことがないほど旨かった。
しかし、15分が限界だった。暖かいカフェテリアに逃げ込み、ホットチョコレートを飲んでいると、くだんの中国人達もやって来た。でも、ポケットに手を突っ込んだだけで、寒そうだけど案外平気そうだ。しばらくすると、彼らは何も飲まず、又そそくさと極寒の世界へ消えていった。何か使命でもあったのだろうか?クールだ。