旅の醍醐味のひとつは人との出会いなのだが、今回ほど様々な人とソデスリアエタことはないと思う。そのほとんどは、パリに住むユカリンのおかげなのだが、彼女が紹介してくれたのがモロッコで会ったハッサンだ。マラケシュにあるスークの中でじゅうたん屋を営む彼は、法外な値段をふっかけるのが当たり前のスークで唯一信頼できるディーラーだとのこと。東京で行われたモロッコのクラフト展のために来日したこともあるという彼のコレクションは、確かに見応えがあり、様々なキリムの中でもなるだけシンプルなものを何枚かいただくことになった。正直なところ、あの狂騒のフナ広場をやっと抜け出て、温厚な顔の彼に出会ったとたん、なんだかホッとした気持ちになったものだ。
ハッサンという名前を聞いてすぐに頭をよぎったのはアリ・ハッサンというスーダンのミュージシャンだった。ナイルの上流、ヌビア地方のダンス・ミュージックのマエストロで、キューバ音楽とミックスした強力なグルーヴは頭がクラクラするほどかっこよく、僕は一時中毒になったことがある。アラブ圏でハッサンという名前は多分ポピュラーなのだろうと思いながらもハッサンに尋ねると、なんと彼もアリ・ハッサンが大好きらしく、彼との距離がグッと縮まったような気がした。ついでに、グナワ・ミュージックはどうか、と聞いたら、もちろん好きだ、お前にアリ・ハッサンとグナワのベストなCDを帰る前にプレゼントする、と約束してくれた(結局この約束は守られなかったが・・・、インシャラーである)。実際、こんな時には音楽は便利な共通語になってくれる。
3日目は朝からハッサンと一緒にアトラス山脈へ車で一日ツアー。マラケシュを出て信号なしでバカみたいに真っ直ぐな道をひたすら走ると、突然茶色をした山岳地帯へさしかかる。ガードレールもない曲がりくねった道を、かなりのスピードで上るエアコンの壊れたワゴン車は、これでも上等の方なのだ。気がつくと標高1500m、そこだけ緑に覆われた谷間のウリカ村へ到着。リンゴの産地らしくレストランで食べた地元料理タジンも美味しかった。そしてハッサンの友人宅でミント・ティーをいただき休憩。この人の名前もハッサンらしい。ハッサンだらけだ。それに、ミント・ティーだらけ。何処へ行っても、まずはミント・ティー。甘く香しいミントの香りと、ハッサンのちょっと汗臭いワイシャツの匂いがなつかしい。