先日も中心街のビルの中にある古着屋で暇をつぶしていたら、いい感じのビッグ・マックに出会った。いや、正確に言うと再会してしまった。その少し前、やはりその店を冷やかしていて見つけたものである。でも、その時は買わなかった。考えてみると、その店で古着を買うことは余り無い。商品の半分以上が古着っぽく見せたオリジナルだし、必要以上に大きな音でヒップホップがかかっていることもあって、いつも気持ちがそがれてしまう。その時もそうで、それ以来そのシャツのことはすっかり忘れてしまっていた。
そういえば、昔からの古着屋が最近少なくなってきた。一時は古着ブームとかで、大名あたりはもちろん、今泉にもいくつか面白い店があった。その後、「グラムいくら」みたいな売り方の店なんかも現れ、とばっちりを受けた老舗はやってゆけなくなったのだろう。今では、一部のヴィンテージを中心にしたアイテムをそろえた店だけになってしまった。それに、そんな店でもちゃんとしたシャンブレーのシャツを見かけることはあまりないし、あっても案外高い。
ところで、僕にとってビッグ・マックが一番似合う役者は、アメリカ人ではない。フランスの名優ミッシェル・ピッコリである。ジャック・リベット監督の『美しき諍い女』(*1)の中で、彼はほとんどの場面をこのシャツで通していたと記憶している。人生の午後を迎えた画家は、洗いざらしのシャンブレーを美しい労働着として完璧に着こなしていた。案外、アメリカの良さを理解しているのは、アメリカ人以外のことが多いのかもしれない。
*1 1991年フランス映画。エマニュエル・ベアールのヌードが話題になったが、上映時間4時間にはビックリ。ピッコリの妻役でジェーン・バーキンも出演している。