Monday, November 4, 2013

organの書体。



 そろそろスイスに入ったかなと思ったとたん、前方にゲートらしきものが見えたので、ここらには珍しく料金所かと思いきや、税関ではないか ! スイスは西ヨーロッパのヘソみたいな位置にあって、何故かEUに加入していない。だから国境には一応入国管理所があるわけだ。
 前の車に合わせるようにスロウダウンしてすり抜けようとしたら、制服の男が手招きをして車を脇へつけて停車するように指示するのでその通りにするしかなかった。すると、後ろに積んでいる箱には何が入っているのかと男が尋ねる。「衣類やおみやげなどだ」と通り一遍の返事をしたのだが、あきらかに納得していない様子だ。確かにオペルの小型ハッチバックの後席を占める大きなダンボール箱3箱のお土産物とは、ちと不自然か。中身を見たいというので、「やれやれ」と思いつつ、車を降りるしかなかった。一個目の箱を開けると、まず昨日ミュンヘンで見つけたカイザー・ランプが二つひょっこり顔を出した。これは日本から持ってきたのかというから、こちらで買ったものだというと、男の耳のピアスがキラっと光ったような気がした。なんだかやっかいなことになりそうな予感がしてきた。それにしても、制服、制帽でピアスである。つい、官憲に対する反抗心がムラムラと芽生えて、ワイルドになってゆく言葉遣いを奥さんから、小声で注意される。すると「外国からスイスに持ち込むのでなければ、通ってよろしい」とのお言葉。拍子抜けしたが、もちろん、さっさと立ち去った。
 スイスといえば「永世中立国」である。といっても軍備はバッチリ、徴兵制もある。なにより中世以来資源の少ないスイスの産業のひとつは「傭兵」。つまり、外国へ出かけて行って戦争をするプロを輸出する国だった。今では、九州くらいの国土に700万人の人口を、金融と精密機械と観光で養い、世界有数の国民所得を誇っている。EUに加盟しない理由も「足を引っ張られたくない」ことが理由だという。なんとも自己本意な国である。そんな国へやって来たのはほかでもない、デザインの国でもあるからだ。たとえば、日常で意識せずに目にするアルファベットで最もポピュラーな書体ヘルベチカはこの国から生まれた。というか、ラテン語で「スイス」を意味する言葉が、そもそも「ヘルベチカ」なのである。写真にある管理所のロゴはモチロン、我がorganの書体もそうである。