久しぶりの買い付け旅は、昨年に続いてのフィンランド。
ヘルシンキの中央駅からレンタカーを借りて走ること一時間半。小さな村で行われるアンティック・フェアで探しものをするためにやってきた。写真はその駅のすぐそばにある郵便局の上から撮ったもの。これを見ると、はじめてこの地を訪れた10年前の印象がふいに蘇ってくる。古びた路面電車に広い道路、立ち並ぶビルディングはいかめしくて、他の北欧の国とはどこか違う雰囲気に戸惑ったことを思い出す。
それは、明らかにヨーローッパ的なデンマークやスウェーデンとは違い、今ひとつ垢抜けない街へ迷いこんだような感覚だった。そこがかえって新鮮だった。そして、これはひょっとすると「社会主義の残り香」ではないか、と自問した。日本へ帰り、すこし調べてみると、当たらずとも遠からずで、フィンランドという国の独特の立ち位置がわかってきた。
スウェーデン王国の属領だったフィンランドは1917年、ロシア革命の混乱の中で「フィンランド社会主義労働者共和国」として独立している。つまり、一時、共産化したのである。しかし、内戦を経て反共産派が勝利すると、第二次大戦ではソヴィエトと東部のカレリア地方をめぐりたびたび戦火を交えている。戦後はソヴィエトの勢力下に置かれることになるのだが、それでも共産主義への道を選ばなかった。結果として、独自の路線で生き延びるしかない。それは資本主義でありながら、西側ベッタリにならず、ソヴィエトとの微妙な舵取りも忘れない両面外交のようなものだった。
冷戦が終わり、グローバルな新自由主義が世界を席巻したことで、共産主義や社会主義は「過去の失敗」として完全に忘れられてしまった。たしかに、国家がコントロールする強権的統制経済に未来はないだろう。でも、いま普遍的に語られるているグローバル経済には、たくさんの不合理や矛盾が露呈していることを、僕らは知っている。フィンランドに生まれたたくさんの優れたデザインには、そんな忘れかけた理念をふと思い出させくれる瞬間がある。垢抜けなくても美しい。