Saturday, June 8, 2013

自覚的に選びとったweird


初めて"weird"という単語に出くわしたのは、90年代にプチグラ・パブリッシングから出た『weird movies a go go』という映画本。辞書によると「奇妙、変」という意味だけど、それならstrangeやbizarreがあるではないか、きっとニュアンスが違うはずだと、たまたま、その本の表紙が贔屓のピーター・セラーズだったこともあり、大いに気になってしまった。そして今回、いわばweirdを自認する街ポートランドへ行ってみて、思い当たるふしに遭遇。空港にあるレンタカー会社のカウンターでのことだ。
 ひとり先客が手続きをしていた。相手をするスタッフは丸顔にネクタイ、まるで少年のようだ。綺麗に撫で付けた髪に小さな口ヒゲ。待てよ、その真っ黒なヒゲがなんだか不自然、とすぐに気がついた。少しポッチャリしたなで肩の彼は、まごうかたなき彼女なのである。それにしても、テキパキと仕事をこなしてらっしゃる。しばらく待って僕らの番になった。つくったような低音の声が芝居じみてたけれど、契約の方はとてもスムーズに終えることができた。
 ポートランドはとてもリベラルな街だといわれる。しかし、オレゴン州全体となるとどうだろう。ウィラメット川流域の都市部を別にすれば、カスケード山脈から東は圧倒的に保守層。様々な事案が常に拮抗するのが現状らしい。たとえば同性婚だけれど、2006年だったかいったんは認められものの、その後、くつがえされたはずだ。知的でクール、緑に囲まれ、エース・ホテルやスタンプタウン・コーヒー、自転車通勤の普及、全米一治安の良い街というのは、あまりにキンフォーク・マガジン的な見方なのかもしれない。誰しも看過できるような異態を晒すレンタカー屋のスタッフが、こっそり闘っている街でもあるのだ。あのチャップリンのようなちょび髭は、単に「変」とみなされるされることを拒否した彼女が、自覚的に選びとったweirdな手段にちがいない。ちなみに、写真の女性はスタンプタウンのスタッフで、本文とは関係ありません。