「先日、アベさんがトルコに来ました」とガイドのニハットさん。もっとも、「原発売り込みのために」とは言わない。イスタンブール市内では何度も「この地下鉄工事は日本のタイセーケンセツがやっています」などと説明する。確かに、見覚えのある大手ゼネコンのマークが建築中の囲いに見える。トルコと日本の関係が良いことを言いたいのだろうが、「国家」と「資本」が一体となったグローバル資本主義の姿を見せつけられたようで別に嬉しくはない。「みなさん、今のトルコは高速道路が発達したおかげで、ツアーの時間も短縮され便利になりました」と、ツアー客へのアピールも忘れない。そのおかげか、バスはオリーブの林を抜けて快調にハイウェイを飛ばしている。
エフェソスに近づき、まずバスを降りたのは古代ギリシャ人が建てたアルテミス神殿。今では石柱が残るだけだが、その向こうにはキリスト教会、そしてイスラムのモスクも同時に見える。ここは、紀元前1500年ころから紀元後800年くらいまで色んな変遷を経ながらも長く栄えた商業都市だった”あかし”なのだ。どちらもユダヤ教を批判しながら派生した宗教である証拠に、ユダヤ教の「アーメン」はキリスト教徒だけではなくイスラム教徒も使うと、これまた意外発言はニハットさん。本当なのだろうか。ただし、ユダヤ教は布教ということをしない宗教なので、祭祀のための壮大な教会などはここにはない。
古代都市エフェソスは交易港だったが、いまは土が堆積してしまい、海岸線から離れた丘の周辺に大規模な遺跡群が残るだけだった。それにしても規模が大きい。これで発掘は全体のまだ10%程度だというから驚きだ。議事堂や広場、市場や浴場、そして2万人収容の劇場などを見て回った。アントニーとクレオパトラがふたりで歩いたという石畳の大通りではエリザベス・テイラーとリチャード・バートンを気取って奥さんと記念写真を撮ってみたがいまいち。僕にはおしなべてローマ帝国の威光ばかりが目立つ印象しか残らなかった。ひとつだけ面白かったのは立派な図書館(写真)と、すぐ近くの売春宿。なんと、ふたつは地下通路で通じていたらしい。「勉強で疲れた頭と体を、リラックスするためでした」とは、またまたニハットさんの迷言。もしも、暴力で強制されたわけではない女性が、貨幣との交換に男性のエントロピーを解消したのなら、イオニア時代の「無支配」の痕跡と言えないこともないか、と無理にひとりごちた。