毎年、ゴールデンウィーク後半ともなると、駅前広場に大きな舞台が出現する。朝から「チェック、チェック、ワン、ツー、ワン、ツー」とマイク・テストが始まって、アーそうだった、”どんたく”だったと気づく。そうなると夜まで大音量で和太鼓や演歌を聞かされる羽目になる。背振山のトンネルを抜けた佐賀の吉野ヶ里近くのAMPギャラリーへ行く気になったのには、つまり喧噪を逃れる為もあった(そんなことを言ってもYABUさんは怒らないだろう。なにしろ彼と僕は「山笠が苦手」という共通項があるのだから)。もちろん、彼にとって初の試みである、ロック・ミュージシャンばかりを描いた『I'm Your Fun』と題する個展を楽しみにしていたのは言うまでもない。
AMPギャラリーを主宰する瀬下黃太さんはミュージシャンでもあり、彼のユニットであるGOGGLESを僕は勝手に贔屓にしている。初めて彼らのCDを聴いたのはずいぶん前だった。『Please Freeze Me』と題され、ビートルズを見事に換骨奪胎したかのような曲にノックアウトされてしまったのだ。そんな繋がりも感じつつ訪れた会場は、とあるカーマニアの方がヴィンテージ・カーを保管しているという広いガレージの一画にあった(以前は白州次郎が所有し、その後、伊丹十三、ムッシュかまやつへと受け継がれた名車ロータス・ヨーロッパも保管されていたというエピソードもあり)。
前置きはこれくらいで、肝心の個展である。YABUさん自身「まるで昔の音楽雑誌の投稿欄にある似顔絵みたいなものを描くとは思ってもいなかった」と恥じらうのもムベナルカナという感じのカリカチュアに思わずニンマリ。どこかで見覚えがある、おもに80年代ニューウェイヴ期以降に活躍した(り、そうでもなかった)ミュージシャン達の「ほぼ決定的瞬間」がさまざまな技法でFreezeされている。赤のクレヨンで単純化されてしまったデイヴィッド・バーン、クロッキーで鎮魂化されたイアン・カーティス、JRでふたりのオバサンの横に何気に座るベック( 写真 )、虚空を見つめながらベッドで放心しているサーストン・ムーア、赤のジャケットを着た本物よりも男前なイアン・デュリー。そのどれもが、YABUさんの優しい毒牙にかけられてスッカリ観念してしまっているのである。会期は残すところあと2日。間に合う方はぜひ足を運んでみてください。お腹が空いたらカフェで名物「ヤッホー・カレー」をドーゾ。
PS. GOGGLES待望の2nd " Come Togeta ( コメトゲタ)"もヨロシク!