司馬遼太郎の『街道をゆく・オランダ紀行』だったと思うけど、レンブラントの絵について興味深い記述があった。有名な「夜警」にしてもそうだけれど、なぜ集団画なのか?、という疑問に対する答えだった。それは当時オランダで勃興した商人たちの肖像画だったのだけれど、ひとりづつでは費用がかさむため、集団という構図でもっていわば「団体割引」にしたという。だから、各人にはちゃんと出自があり、見る人が見れば「どこの誰それさん」と分かるのだそうである。さすが元祖"Go Dutch(割り勘)"のお国柄らしい精神だと感心した。そんな質素な生活振りは、たとえばフリーマーケットにもあらわれていて、様々な生活用具は見つかるのだが、場所的には近い割に北欧ブランドなどは皆無といっていいほど少ない。ちなみに、ワークシェアリングという発想もオランダが発祥とか。海をせき止め、低地を干拓した人々の創意工夫が脈々と受け継がれているのだろうか。
オランダはデザインの分野でも独特だ。90年代にドローグが登場し世界をアッと言わせ、マルセル・ワンダース、ヘラ・ヨンゲリウスを輩出したし、その後のマーティン・バースなど、ウィットと批評性に満ちた立ち位置がとても刺激的だ。僕には、その根っこにトーマス・リートフェルトの存在が感じられる。木片を積み木のようにくっつけて作った椅子や家具には、手練れの職人技の痕跡はない。有名な「ジグザグ・チェア」なんて、どうみても座り心地が良さそうには見えない。しかし、いったい「究極の座り心地を約束する椅子」とは何だろう、と思ってしまう。座った瞬間はどんなにラクチンでも、そのままの姿勢を保ちつつづけることは考えにくい。ヒトは動く存在なのだから。「椅子とはすべからく仕事椅子である」と言ったのは、それこそリートフェルト本人だったような記憶がある。そして追い打ちを掛けるように「もし休息がお望みならベッドがある」とも言っていたような...。そういえば、オランダでは安楽死も認められているのだ。
ポップスで思い出すのはフェイ・ロブスキーという女性シンガーソング&ライター。フォーキー&ジャジーなスウィンギン・スタイルがキュートで、90年代モンド・ミュージックなひと。80年代にはグルッポ・スポルティーヴォというアーティーでパンキッシュなバンドもいたっけ。オランダって、カウンターを繰り出すのが上手い。結論として、久々のアムステルダムはすこぶる楽しかった。出来ることなら、来週にでもまた行きたいほどだ。