Friday, May 21, 2010

「音のある休日」#24

TIMELESS / BOBBY CHARLESBobby2  " ミュージシャンズ・ミュージシャン " という言葉がある。「音楽家から愛される音楽家」という意味合いで、一般的には知名度が低い場合も多い。この遺作を聴き、ボビー・チャールズもそんなひとりだったと思った。
  1938 年ルイジアナ生まれ。ニューオリンズ音楽の作曲家としてレイ・チャールズなどにも曲を提供した白人ミュージシャンである。 70 年代にはウッドストックに移り、ザ・バンドのメンバーたちと発表したアルバムは「隠れた名盤」として聴き継がれている。その中の一曲「スモールタウン・トーク」は、はっぴいえんどで知られる曲「風をあつめて」の元ネタとも言われている。あの、くぐもった暖かいヴォーカルがもう聴けないと思うと、残念だ。
(西日本新聞 5 月 9 日朝刊)

「音のある休日」#23

The Fabric [Post Foetus]
 
Postfoetus2 曲を作り、人前で演奏し、CDを出すのはプロの仕事だった。ところが最近、あの急速に利用者が増えているtwitter(ツイッター)のように、自分なりの「つぶやき」がそのまま音楽となり、フツーに世界中の人と共有できる時代になってきたようだ。
 ロサンゼルス生まれ、4才の時からクラシック・ピアノを習得した青年が20才でデビュー。聴いてみると、自分なりの音を重ねるという、純粋な楽しさに満ちあふれた美しい作品だった。音を感じ取り、自分なりに表現する。そこには、様々なジャンルの音楽がちりばめられている。彼にとってのノートブック・パソコンは、受け手から発信者へ変わるための大切なプライベート・スタジオなのだ。
(西日本新聞 4 月 25 日朝刊)

Thursday, May 20, 2010

「〜も、カマタリ...」

Img 0957 「YODEL」という同人誌めいたフリーペーパーを始めたおかげで、毎日が加速度を付けた勢いで過ぎ去ってゆく。6月発行予定の次号でさえまだちゃんとメドが立っていないのに、気持ちは9月号に飛びかけている。コーヒーに関するコンテンツに決めてはみたものの、知らないことだらけ。焼き付けばでもいいから、コーヒーのイロハが教われないかと、休憩時間に「手音」を訪ねた。今年初のアイスコーヒーを飲みながら、村上さんに質問してみたくなったからだ。「”コーヒールンバ”で唄われる『〜モカ、マタリ....』っていう言葉だけど、モカはなんとなくコーヒーの品種だと分かるとしても、マタリもそうなんだろうか?」。僕が西田佐知子の唄ったこの曲にクラクラしたのは中学生だった頃。鼻にかかった独特の節回しが鮮烈で、リズムがエキゾチックだった。ところが、唄っている内容が摩訶不思議。まだ、ちゃんとしたコーヒーなどほとんど飲んだことがなかったわけで、まるで「判じ物」だったが、かえってそれも惹き付けられた理由だったような気がする。その頃日本史の授業で暗記したばかりの藤原鎌足(もしくは藤原釜足!)のせいなのか、「〜も、カマタリ...」と聞こえてしまったのも仕方がないことだった。「マタリっていうのは、コーヒーの原産地のひとつイエメンに昔あった港の名前です」と、村上さんから聞いて、積年の謎がようやく解けた思いがした。そのうえに「よかったらコレを読んで見てください」ということで、「こうひい絵物語」という本を貸してくれた。版画と文章でコーヒー小史を学べる本のようで、読むのが楽しみだ。

Thursday, May 6, 2010

久住登山

Img 0889 「一泊二日で久住登山をしよう」と最初に友人から誘われたのは確か去年だった。彼はそのコースを子供と愛犬を連れて踏破したばかり。僕も中学生時代に父と一緒に登ったことがある1786mの(ほぼ)九州本島最高峰という山である。さっそくENOUGHのみんなに提案したが、反応がはかばかしくない。ところが、その後同人誌を発行することになりタイトルを「YODEL」、第一号のテーマを「山」などとしたおかげで、少しずつ山への興味が芽生えかけていた。まあ、何事もタイミングが大事ってこと。晴れて今回、13才から61才まで総勢11名プラス犬二匹の即席パーティーで頂上を目指すことになった。
 朝6時半に福岡を出発、快晴の山並みを抜け、2時間くらいで6合目の登山口に到着。ここから自力で登る時間は片道4時間ほどらしい。前の晩ライブで一睡もしていないサックス青年は、なんとコンバース穿きで参加。再三にわたる友人の事細かな事前メールにも関わらず、みんな「まあ、なんとかなるさ」くらいの読みだったようだ。ところが、車を降り、いざ登り初めると早速心臓破りの急な坂。まもなく、キャドと格闘していたであろう夜型人間のひとりが早くも音を上げた。早速一回目の休憩。「こまめに水分を補給して下さい」というリーダーの言葉に、もはや汗だくのパーティー一行はゴクゴクと水を体内に注入する。もちろん、その後、いつ果てるとも知らない大小の石ころだらけで急峻な山道と格闘する羽目になるとも露知らず...。
 「神経を集中して歩いてください」との声に励まされながら、なんとかその日の宿泊地である温泉へたどり着いた時は、さすがにホッとした。もう、しばらく石は見たくもない気持ちだった。下りは特に膝に負担がかかるようで、たかだかの段差さえ、おっくうである。なんとか落伍者にならずに済んだのは、途中で足にしっかりテーピングをしてもらったおかげだろう。そうそう、軽量ステッキも貸してもらったし、なによりデイパックを替わりに背負っても頂いた。サイコーレーシャとして、遠慮なくご厚意に甘えたわけである。トレッキングシューズを脱ぎ、さて温泉に浸かって疲れを取ろうかと思ったら、膝から太ももへかけて派手に十文字に貼られたテープが現れた。バリバリと剥がしてヌル目のお湯に浸かると、山の夕暮れが、すぐそこまで迫っていた。