Saturday, November 15, 2008
この星はもっとずっと住みやすくなる by バロウズ
奥さんがウィリアム・S・バロウズの「Last Academy」というDVDをレンタルしてきてビックリした。あれほどヨーロッパびいきだった彼女も、最近はアメリカ寄りだと自他共に認めている。それにしても、よりによってあんなにヘヴィーな変人に興味を持たなくても・・・と思ったが、ひょっとするとサンフランシスコでビートニク発祥の本屋「シティライツ・ブックセラーズ」に立ち寄ったせいかもしれない。なにしろ、アレン・ギンズバーグも実はバロウズに憧れていたという話で、僕としても興味が無いわけではない。といっても、80年代ニューウェイブの最中に、イギリスのスロッビング・グリッスルというカルトなバンドが、ある時に名前をサイキックTVと変え、その名前の由来がバロウズであるということくらいの認識でしかなかったのだけれど。その後、彼がピストルを手に不気味に笑っている写真を見たり、小説「裸のランチ」を買ってはみたものの、どうにも不可解なだけだった。で、初のDVDだったのだが、前半はダダやシュールリアリズムのコラージュ作品みたいで、かなりヨーロッパっぽい印象。ところが、後半のパフォーマンスは圧巻だった。いわゆるポエトリー・リーディングのイヴェントなのだろう、若い聴衆を前によどみなく自作を朗読するクールな姿はちょっとしたものだった。いわば世間の、というかアメリカのタブーみたいなものに敢然と挑む姿勢は、もちろん挑戦的だけど、ある種痛快でユーモラスでさえある。それは、知性というものがある不思議な発展を遂げた結果を思わせるものだった。ふと、北野タケシを思い浮かべてしまった。しかし、バロウズが果たして生前にテレビというお気軽なメディアで毎週お茶の間に顔を出しただろうか、と想像した途端にこの仮説は霧散してしまった。お国柄というものは、厳然としてあるのである。それにしても、アメリカという国の果敢な実験性は、この種の重層的なサブカルに支えられているようだ。