Friday, December 14, 2007

湯煙ウィッグ事件

久しぶりに、ちゃんとした温泉に行った。近郊のヌーヴェル温泉みたいなのには時々行くのだけれど、遠来の友人や、長年の親友、つい前日に誘った若い友人達との遠出である。気分が高揚しているのがわかった。ちょっと不思議な組み合わせなのだが、全員仕事としてアートやデザインに携わっているというところが共通している。そうそう、「飲み助&食いしん坊」ってところも同じだ。ひょっとして、「何か起こるのでは」という予感めいたものがあった。

 行く先はなるべくメジャーじゃないほうがいい、ということで「はげの湯温泉」とした。ネットで調べた結果、リーズナブルで料理も盛りだくさん、なによりお湯自慢という点にこだわったつもりだが、多分、ネーミングに惹かれたのかもしれない。しかし、結果としては正解だったといえる。日田で高速を下りて小国へ。そこから脇道へ20分くらい坂道を登ると、木立の間から湯煙が立ち登るのが見えた。それも、かなりの数である。いわゆる温泉街とは違う、山間の田園に点在する一見普通の家々からの煙に、親友は「なんか、昔の工場のようだ」、とつぶやく。

 車から降り、宿の玄関へ向かう途中、そこかしこでシューシューと音を立てて湯が噴出している。昔行った別府温泉ですら、こんなふうに駐車場のそばで当たり前のように煙やお湯が出ていただろうか。いやがうえにも期待感が高まる。古民家風の建物に上がると、大きな掘り炬燵がある。たまらず足を入れると、じんわりと暖かい。温泉の蒸気を引いているということである。そうこなくては。

 部屋に落ち着き、茶と菓子を頂いたはずだが、覚えていない。一刻も早く、温泉に入りたい一心だったのだろうか。ただ、仲居さんの注意だけは覚えている。お風呂は内湯と露天、両方ともいったん下駄に履き替え外に出ること。ふたつの風呂はすぐ隣だが、かならず浴衣を着て移動すること、と念を押された。なるほど、この宿には囲いがない。内湯と露天を裸で移動すれば、近くの道路からも丸見えである。

 お湯はとてもよかった。優しい硫黄の匂いにとろりとした泉質。「湯ノ花」というものも久しぶりだった。それにしても、日本的なうまい言い方だ。外人さんが、汚れた湯と勘違いした時、「これは、ホットスプリング特有のフラワーです」、などと説明できるではないか。

 夕ご飯は部屋食ではないが、その代わりにひと品ずつ出てくるので、焼きたての子持ち鮎や揚げたての天ぷらもおいしくいただくことが出来た。白眉は温泉の蒸気で蒸した若鶏と野菜。持ち込みの焼酎、ワインやシャンペンにもこころよく対応してもらい、全員すっかり出来上がってしまう。「クイーンと10cc、どっちがアートか」で、議論が白熱。当然の成り行きで「さあ、もう一風呂浴びて、部屋で飲みましょう」、ということになった。

 ところが、NYから一週間ほど前に里帰りし、目下旅行中のカップルは早めの就寝。となると、残るは我ら博多ッ子だけ。話は、ややもするとざっくばらんなムードとなる。子細は忘れたが、気が付くと僕が持参した帽子代わりのウィッグを代わりばんこにかぶっている。浴衣、はんてんにウォーホル風かつらはバカバカしくも可笑しい。
Rimg0029-1「修学旅行の夜中」状態と化した僕らはだんだんとエスカレート。布団に入り、若松孝二もどきのポーズで激写大会が始まってしまった。確かに、予感は当たったわけである。もちろん、「はげの湯」だからと、ウィッグを持参したわけではないのだけれど。










熊本県阿蘇郡小国町西里3051「たけの蔵」tel.0967-46-4554