平野太呂さんが新作写真集『LOS ANGELS CAR CLUB』をひっさげて福岡へやってきた。そこで、TAG STAで”本の即売と、お話の会”をやりましょうということになり、相手を努めさせてもらった。お題は「僕らはどうしてこんなにアメリカに影響されちゃったんだろう」。
これはロサンゼルスのハイウェイを走る車だけで構成された写真集だ。それも高級車ではなく、庶民の足か仕事兼用がほとんど。洗車なんて無縁、色違いに修理されてしまったフェンダーがボコボコだったり、年季の入ったビーイクルばかり。それが妙にカッコいい。今ではすっかり見なくなった日本車だってまだまだ現役だ。運転しているのは白人、メキシカン、黒人、イスラムのチャドルを被った女性もいる。かれらはまっすぐ前を見ながらひたすら運転する。空も道路も、乾いたカリフォルニアの空気を映して白っぽい。車は疾走しているのか静止しているのか判然としない。宙に浮いているかのようにも見える。
40年前にぼくは『MADE IN USA カタログ』という雑誌で、アメリカの「これでもか!」というほどのモノやアイテムにはじめて触れた。なかでもワークウエアのデザインや素材感を切望した。太呂さんが写した写真をその延長戦のようだと思った。疾走する庶民の瞬間だ。
太呂さんはスケボー少年だったらしい。”スピード移動する道具”という意味では、小さく無防備なクルマである。それを駆って、動体写真への感を養っていたのだろうか。100キロ超えの車が走る4車線のハイウェイで「これぞ」という車を発見し、追走し、並走し窓越しにパシャリとやるのはそんなに簡単ではなかったらしい。乗っている人が何を考え、悩み、期待しているのか、ぼくらは2車線離れたレンズを通して、少しだけ想像するしかない。